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6-1-発来

 円滑に執り行われた終業式。  鳴海は体を蝕む煩わしい痛みを持て余していた。 「久世君、具合悪そう。代わりにゴミ持っていこうか?」  顔色にも出ていたらしい。大掃除の時間、鳴海はベータ性の生徒の申し出を丁重に断って、キャンパスの片隅にあるゴミ収集場へ向かった。 (朝、薬を飲んでおけばよかった)  起床時から異変を察してはいたものの、一学期の締め括りとなる終業式にはちゃんと参加したい気持ちが勝り、鳴海は父親に体調不良を黙って登校していた。 (それに舜と約束してる)  学校帰りに彼とお昼を食べにいく予定だった。恭太郎は用事があって同行しないという。  下腹部に居座る重たげな痛み。  校舎を出、先日に梅雨明けして眩しい夏空の下、半袖姿の鳴海は一つの懸念を抱く。 (そんなわけない)  年齢的にまだ先の話だ。きっと夏風邪でも引いたのだろう。痛みがひどくなるようだったら、明日、かかりつけ医に診てもらえばいい……――。 「久世鳴海君、御堂先輩が呼んでるよ」  帰りのホームルームが終わり、待ち合わせに指定されていた中庭へ鳴海が向かおうとした矢先、階段で呼び止めてきた人物がいた。 「丹羽さん……」 「あ、僕の名前ちゃんと知ってるんだね。御堂先輩、どういう風に説明してくれたんだろう。褒めてもらえてたら光栄だな」  心にもないことを言っているのは一目でわかった。階層重視だという丹羽の侮蔑のこもった顔つきに、鳴海はきつく唇を噛む。 「まぁ、オメガの割に頭はそこまで弱くなさそうだから、嘘だってバレてるか」  以前、屋上庭園で丹羽と共にいたアルファの姿もあった。乱暴に腕をとられ、そのまま高等部棟の最上階まで連れていかれる。  階段を上ってすぐの廊下の突き当たり、両開きのガラス張りの扉を押し開き、礼拝が毎朝開かれているチャペルの中へ。  白い漆喰壁。高い天井。張り巡らされた剥き出しの梁に、アンティーク調の照明器具。中学部・高等部の生徒を収容できる広さで、中二階席もある。正面の講壇の中央には説教卓、左側には立派なパイプオルガンが設置されていた。 「暑いな、冷房点けてるはずなのに」  ずらりと並ぶ木造の長椅子に鳴海を突き飛ばし、丹羽はネクタイを緩める。 「君自身に恨みはないよ。でも御堂先輩への当てつけに仕方なく、ね」

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