23 / 46
6-2
アーチ窓の向こうからはセミの鳴き声が盛んにしていた。
「八つ当たりなんて、かっこわるいと思う? でも、これが案外気晴らしになるんだよね」
チャペルで待機していた二人が各出入り口を見張り、残る六人は鳴海を取り囲む。丹羽の隣に立った生徒は携帯を取り出し、何やら操作を始めた。
「君の恥ずかしいところでも撮影して、ネットに投稿しようかなって……本当暑いな、冷房壊れてるのか?」
口を揃えて「暑い」と愚痴るアルファ達。囲まれたオメガは、一人、青ざめる。
(まさか、そんな)
突如として激しくなった腹部の痛み。周囲とは逆に寒気を覚え、指先まで冷たくなっていく。刺すような痛みに貫かれて背中を丸め、鳴海は背もたれ伝いに力なく滑り落ちていった。
ウテルス・オメガに発情期は訪れない。
代わりにウテルス特有の月経が発来する。
月経の間はヒートを上回る性フェロモンが解き放たれる。発情期とは似て非なるもので、ヒートの場合、影響を受けるのはアルファにほぼ限定されるが、ウテルスの月経はベータどころか同じオメガにまで極度の興奮をもたらす。
そしてウテルス自身は発情しない。ただ耐え難い苦痛に嬲られるだけだ。痛みを抑える薬はあるが、月経自体を止める手立てはない。
月経中のウテルス・オメガはヒイキせず平等に無自覚に誘惑する。
アルファ、ベータ、オメガ。若雄となる男達は「第二の性」関係なしに下半身を支配される……。
「もしかしてヒートになっちゃった?」
鳴海は歯を食い縛る。霞む眼で丹羽を見上げ、片手で顔の下半分を押さえる彼の、今にも血迷いそうな目つきに戦慄した。
「……そうです、ヒートになりました。だから、ここから早く……出ていってください」
発情期になったと鳴海が嘘をつけば、彼等は顔を見合わせた。どのアルファもギラついた目をしている。本性を露にして卑しげに笑う者もいた。
「間違いを犯す前にいなくなれって?」
「でもさ、コレ、すごくない? 前のとは比べ物にならないっていうか」
「あー。駅ビルのトイレに避難してた他校の奴?」
「年上のオメガ女のときよりも強烈なかんじする」
罪に問われるべき卑劣な行為を巧みに重ねてきた丹羽達は、当初の計画を変更することにした。
「せっかくのヒートなんだから有効活用させてあげるよ」
ともだちにシェアしよう!