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 アーチ窓の向こうからはセミの鳴き声が盛んにしていた。 「八つ当たりなんて、かっこわるいと思う? でも、これが案外気晴らしになるんだよね」  チャペルで待機していた二人が各出入り口を見張り、残る六人は鳴海を取り囲む。丹羽の隣に立った生徒は携帯を取り出し、何やら操作を始めた。 「君の恥ずかしいところでも撮影して、ネットに投稿しようかなって……本当暑いな、冷房壊れてるのか?」  口を揃えて「暑い」と愚痴るアルファ達。囲まれたオメガは、一人、青ざめる。 (まさか、そんな)  突如として激しくなった腹部の痛み。周囲とは逆に寒気を覚え、指先まで冷たくなっていく。刺すような痛みに貫かれて背中を丸め、鳴海は背もたれ伝いに力なく滑り落ちていった。  ウテルス・オメガに発情期は訪れない。  代わりにウテルス特有の月経が発来する。  月経の間はヒートを上回る性フェロモンが解き放たれる。発情期とは似て非なるもので、ヒートの場合、影響を受けるのはアルファにほぼ限定されるが、ウテルスの月経はベータどころか同じオメガにまで極度の興奮をもたらす。  そしてウテルス自身は発情しない。ただ耐え難い苦痛に嬲られるだけだ。痛みを抑える薬はあるが、月経自体を止める手立てはない。  月経中のウテルス・オメガはヒイキせず平等に無自覚に誘惑する。  アルファ、ベータ、オメガ。若雄となる男達は「第二の性」関係なしに下半身を支配される……。 「もしかしてヒートになっちゃった?」  鳴海は歯を食い縛る。霞む眼で丹羽を見上げ、片手で顔の下半分を押さえる彼の、今にも血迷いそうな目つきに戦慄した。 「……そうです、ヒートになりました。だから、ここから早く……出ていってください」  発情期になったと鳴海が嘘をつけば、彼等は顔を見合わせた。どのアルファもギラついた目をしている。本性を露にして卑しげに笑う者もいた。 「間違いを犯す前にいなくなれって?」 「でもさ、コレ、すごくない? 前のとは比べ物にならないっていうか」 「あー。駅ビルのトイレに避難してた他校の奴?」 「年上のオメガ女のときよりも強烈なかんじする」  罪に問われるべき卑劣な行為を巧みに重ねてきた丹羽達は、当初の計画を変更することにした。 「せっかくのヒートなんだから有効活用させてあげるよ」

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