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 椅子に倒れ伏していた鳴海を引き摺り下ろす。説教卓に一直線に伸びる通路に組み伏せ、月経痛で力が入らない下級生の両手首をネクタイで縛った。別のネクタイで手慣れた風に猿轡まで噛ませる。  本来、ヒートに突入したオメガは興奮状態に陥り、火照り、息切れ、発汗が顕著に表れる。今の鳴海は顔面蒼白で体中冷え切っていた。ウテルスの誘惑に平伏している彼等からしてみれば、取るに足らない違和感で、他のオメガとの違いは完全に見落とされていた。 「うう……ッ」  腕も足も床に押さえつけられ、丹羽に乱暴に制服を乱されて鳴海は呻く。 (嫌だ、嫌だ、嫌だ)  平均的に二十歳前後に来ると言われているウテルスの初経が、思いも寄らない早いタイミングで始まってしまった。 「学校で無理矢理とか興奮する」 「見つかったら即退学、いや、捕まるかな」 「ヒートになったオメガが悪い。不可抗力だろ」  荒々しい息遣いが肌身に触れる。ベルトに手がかかると、鳴海の目尻には涙が滲んだ。隠し続けてきたウテルスの証を暴かれるだけでなく、心身まで蹂躙されるのを恐れ、なけなしの抵抗を試みた。  のしかかる丹羽から頬を平手打ちされても、やめなかった。  未知なる痛みと絶望感に追い込まれながらも、寸でのところで持ち堪え、身を捩じらせ、アルファの群れ相手に死に物狂いで抗った。 「このクソオメガ、大人しくしろ」  ナイフを翳されると切れ長な双眸は恐怖に見開かれた。並外れた興奮のせいで、手元が定まらずに不意に眼球まで接近した刃先に竦み上がる。  そのときだった。  ガラス張りの扉が勢い任せに開かれた。 「鳴海」  チャペルに飛び込んできたのは舜だった。

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