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7-1-自覚

 夏休み序盤は自宅のベッドで寝て過ごした。 「十五歳のウテルス・オメガに初経が来るのはちょっと珍しいけれど、極端に早過ぎるということでもない。異常なことではないから、心配しなくてもいいです」  総合病院に在籍するかかりつけ医に紹介された隣県の大学病院。八月上旬になってオメガ性専門となる外来診療を受診し、父親と共に医師の話を聞いた。  ウテルスの月経は不規則な周期で安定せず、数ヶ月に一度、もしくは年単位の間隔が空くこともしばしばで、基礎体温、コンディションを毎日記録し、地道な作業で体調管理を心がける必要がある。発情期と同様、月経になった際は自宅安静を強いられる。近親者であれば性フェロモンの影響は受けない……。 「貴方の体はウテルス・オメガとして正常で健康に育っています」  念のために受けた臨床検査でも異常は発見されず、適切な処置についてざっと説明を受け、予め痛み止めを処方してもらい、その日は帰宅した。 「何でもいいから。無理をしないで教えてほしい」  ウテルス・オメガとして生まれ落ち、頻繁に気遣われる環境に鳴海はいつからか負い目を感じるようになった。母親を失い、これ以上、父親に余計な心労を与えたくなくて「大丈夫」を使い回すのが癖になっていった。 「お母さんの分まで鳴海を支えるから」  大切な家族に諭され、依然として負い目を引き摺りつつも、安心させるために鳴海は頷いた。 (ありがとう、ごめん、お父さん……)  ウテルスの月経に関しては、かかりつけ医から前もって話を聞いていたし、資料にも目を通していた。しかし、いざ発来すると混乱の連続であった。  そもそも始まるタイミングが最悪過ぎた。 (丹羽さん達は処分を受けた)  あの日、鳴海は保健室で目が覚めた。養護教諭はベータ女性で、ウテルスの件を把握している教員の一人だった。 (舜が守ってくれた)  保健室に舜の姿はなかった。彼の手によって、すでに丹羽のグループは職員会議中だった教師陣の前に突き出されたと養護教諭から聞き、痛みと安堵の狭間で、自分の身に舞い降りた不運と幸運をひしひしと実感した。  お礼を言いたい。そう思いつつ、腕の中で意識を失ってから舜とは一度も会わず。逡巡している間に八月半ばに差し掛かり、鳴海は気もそぞろな夏休みを過ごしていた。

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