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二の足を踏んで舜と会わずに夏休みは過ぎ、二学期の始業式が明日に迫った。
「鳴海君、何かありましたか?」
鳴海は久し振りに一ノ宮と会っていた。六月以来の再会で、終業式での出来事は一切伏せていたのだが、元担任は教え子の変化を見逃さなかったようだ。
「……夏休みがもう終わってしまうので、憂鬱だなって」
厳しい暑さに見舞われた真夏日。一ノ宮に誘われて卒業した中学校を訪問していた。
職員室にちらほらいた教師達に挨拶し、高校の制服姿で校内を回っていた鳴海は、一ノ宮に心配をかけさせまいと誤魔化す。
「夜更かしが癖になっていて、ちゃんと起きれるかどうか」
(明日、舜に会える)
守ってくれたお礼を伝えて、そして謝らなければ。ランチの約束を破ってしまったこと。
(舜は強いから……きっと耐えられたんだ)
月経により増加するウテルス・オメガの性フェロモン。多くの若雄が平伏す誘惑に唯一打ち勝ったアルファ。
チャペルで抱きしめられた。
意識は朦朧としていたが、あのときの熱は肌身に刻みつけられていた。
(会って、普通に話せるだろうか)
みるみる頬が赤くなる。頭を前に倒した鳴海は、履き慣れない来客用のスリッパを意味もなく見下ろした。
「暑いですか?」
「あ……いいえ、平気です」
「顔が赤いようなので」
「……そういえば知り合いに聞かれました。櫻葉中にいるかっこいい先生のこと、知らないかって。一ノ宮先生だって教えておきましたよ」
「それはそれは」
一ノ宮はクスクス笑った。登校している部活生から擦れ違いざまに挨拶され、背後ではしゃぐ女子生徒の黄色い声をさらりと聞き流し、廊下の途中で足を止めた。
「綺麗ですね」
鳴海は顔を上げる。窓に目をやって「ああ、積乱雲……雨が降らないといいですね」と、ビル群の彼方に連なる雲を眺めた。
(雨が降らなかったら、また、中庭で昼休みを一緒に過ごせるかな……?)
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