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 教室へ到着する前に、終業式の日の悪夢が生徒に噂されている無情な現実を思い知らされた。  高等部一年のオメガが学校でヒートになった。乱暴しようとした三年生は処分を受けた。具体的に誰であるのかも名前が複数挙がっており、加害者側のアルファを非難する声よりも、彼等を惑わせたオメガを咎める声の方がより威圧的で大きかった。  正面切って尋ねてくる者はいなかったが、教室でもクラスメートの視線を始終感じ、鳴海の背中はヒヤリとした。 (こんな状況だと舜に話しかけられない)  式典は中学部・高等部の合同でチャペルにて行われる。クラス毎に列を成すでもなく、各自移動であり、鳴海は最上階へ一人で向かった。  生徒がひしめき合う騒がしい階段で彼を見つけた。  視線を絡め取られる後ろ姿。弟が自宅で染めているというプラチナブロンドにまず目を引かれ、色鮮やかな存在感に意識までもっていかれる。  後少しで最上階に着くところだった舜が不意に振り返り、鳴海は思わず息を止めた。  目が合った次の瞬間、顔を背けられた。  踊り場にいた鳴海は、何人もの生徒を挟んだ先にいる彼が階段を上りきるのを、瞬きも忘れて見送った。  視線を振り切られた。避けるような仕草だった……。 「学校で発情されたら迷惑なんだよ」  上級生に心無い言葉を投げつけられた。どれも耳の外を通り過ぎていくばかりで、鳴海には届かなかった。 (あの人が好きだ)  舜が遠ざかって、いつの頃からか止め処なく募らせてきた彼への想いがついに氾濫し、鳴海を無慈悲に呑み込んだ。

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