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 二学期の前半には体育祭や文化祭と大きな学校行事が続き、全校生徒は多忙の身となり、鳴海に関する噂は目まぐるしい日々に埋もれ、いつしか取り沙汰されなくなった。 「久世君って器用だね。教室展示の飾りつけ、一番上手だった」 「隣のクラスのも手伝ったんでしょ? 友達が助かったって言ってたよ」  教室では、淡泊な関係を築いていた中学時代よりもクラスメートとのコミュニケーションが増えていた。  退学した丹羽は兎も角、学校に残ったアルファの群れは叩けば埃が出る身で、何よりも舜の警告を恐れ、すっかり鳴りを潜めていた。  季節の移り変わる十月。  中間テストも終わって周囲が一段落つく中、鳴海も安定した日々を送ろうと人知れず努力した。医師に言われた通り、体調管理を心がけ、不調を感じたときは無理をしないと決めた。 (俺の体なんだから、誰よりも俺自身が知らないと)  今まではウテルスであることが嫌で、何かにつけて塞ぎ込んだ。普通のオメガに生まれたかった。ウテルスだからこんな目に遭う。そう闇雲に嘆いてばかりいた。 (ずっと目を背けていたら……何も変わらない)  ウテルス・オメガ特有の月経が始まったことで、自分の性と向き合い、前へ進む覚悟ができたのかもしれない。 (気持ちの整理をつけないと)  舜との関係は依然として断たれていた。数日前に校内で擦れ違ったとき、やはり視線は一方通行で交わらず、拒絶されているのを痛感した。  諦めなければ。舜はもう戻ってこない。  彼と一緒にいた時間は一学期最後のチャペルで止まってしまった。

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