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一ノ宮が案内した先は裏通りの一角にある児童公園だった。鳴海のマンションから近く、小さい頃によく遊んだ場所でもあった。
「鳴海が来る前に、グラスの水に粉末らしき何かを入れた」
適度な広さの園内には遊具とベンチが設置され、若いカップルだったり煙草を吸う者だったりと、数人の利用者がいた。
「その水を鳴海に飲ませようとした」
滑り台の陰で舜は一ノ宮と対峙する。敵意に満ちた鋭い眼は、レンズの奥で静けさを保つ瞳をしっかりと見据えていた。
「一体、何を入れた? 鳴海をどうするつもりだった?」
碧と恭太郎はいなかった。舜が帰るように指示したのだ。
舜の背後に立ち、彼の携帯を手にした鳴海は、表示されたアプリのメール画面に釘づけになっていた。
鳴海にメールを送った時点で、碧と恭太郎はすでにファミレスに入店しており、近所にいると冒頭で伝えるのは押しつけがましいかと、現在位置は敢えて伏せていたそうだ。
鳴海に断られた後、二人で軽食を摘まんでいたら、一ノ宮が店へやってきた。
友達から話を聞いただけで、その時点で櫻葉中の例の教師だとは当然わかるはずもなく、ただ、スマートな立ち居振る舞いに極々自然に碧は興味を引かれた。
ドリンクバーから戻った彼は二つのグラスを持っていた。待ち合わせだ。どんな人が来るのか、恋人だろうか。碧は恭太郎の話もそっちのけで、純粋な好奇心から、観葉植物越しに斜向かいにつく一ノ宮をこっそり観察した。
チャックつきの小さなポリ袋を懐から取り出し、グラスの一つに白っぽい粉末を落とし込むのを見、最初はサプリメントか処方薬だろうと、然して気に留めなかった。
無人の向かい側にそのグラスが置かれると、無視できない不自然さが頭を擡げた。
余程、信頼のおける者同士か、それとも家族なのか。でも本人が来る前に、あんなことをするだろうか? 極端に口数が減って表情も硬くなり、異変を感じ取った恭太郎に心配される最中、鳴海が来店し、碧は愕然とした。
父親にしては若く美しい男。一人っ子の鳴海の親戚か知人、仮に卒業後も会っているという元担任であったとしても、先刻の行いが引っ掛かって碧の頭から離れなかった。
ひょっとすると、とんでもない場面を目撃したのではないだろうか。
中学生の碧は怖くなった。一ノ宮と対面している鳴海になかなか声をかけられず、悩んだ末、兄にメールを送った。目にした一部始終を文字に起こし、恭太郎の携帯にも同じ内容を送信し、その場で確認してもらった。
「鳴海にもメールするか、声をかけるか、二人が決めかねていたら当の鳴海が泣き出して、益々迷ったそうだ」
舜からは煙草の匂いがしていた。
メールの内容に凍りついていた鳴海は、嗅ぎ慣れない匂いにふと思考を攫われ、彼の背中を見つめた。
(俺のことを避けていたのに)
心配して、また、来てくれた……?
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