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10-1-初めての

 舜は当たり前のようにマンションまで鳴海を送り届けた。 「父親は出張なのか。そのこと、一ノ宮には教えていないな?」 「……」 「教えたのか」  マンションの正面玄関。オートロックを解除する前で、郵便受けに入ったチラシを見落としている鳴海に舜は端的に問う。 「今日、泊まってもいいか」 「え?」 「アイツが何をしてくるかわからない。用心するに越したことはないだろ」  一ノ宮の影を引き摺り、独りぼっちの夜に幾許かの心細さを予感していた鳴海は、ほっとする。その反面、家に招くだけではなく舜と二人きりの夜を過ごすことに、一気に緊張感が強まった。 「碧や恭太郎も呼ぶか?」 「えっ……いえ、また二人に迷惑かけるのも……」 「喜んで来ると思うが」  時刻は午後七時を回っていた。無人の我が家へ帰宅すると「お参りしてもいいか」と、玄関で舜に聞かれて鳴海は少し驚いた。 「お母さんのこと、碧君から聞いたんですね」  リビングに隣接している和室の角で正座し、舜は手を合わせる。目まぐるしく起こった一連の出来事に精神的に疲れていた鳴海は、仏壇に飾ってある母親の写真を見、そっと息をついた。 「弟が根掘り葉掘り聞いて悪い」 「いいんです。お母さんの話ができて、嬉しかったし……今日、碧君はどうして急に俺と会おうとしたんだろう。何か急ぎの用事でもあったのかな」 「俺の夜遊びについて相談したかったみたいだな」 (夜遊び……そういえば、夏休みの間は外泊が多かったとか……) 「……俺に相談されても困ります。それから煙草の匂い、何とかしてください。部屋に染み着いたらお父さんに誤解される」  和室の戸を閉め、リビングのソファに舜を案内し、鳴海はカーテンが開けっ放しになっていた窓辺に立つ。 (本当に踏ん切りをつけなくていいのかな)  やっぱり、寂しそうにしていたからパンを渡すなんて、小動物扱いもいいところなのでは……――。  カーテンを閉めきったところで鳴海は棒立ちになる。  振り返る前に、後ろから抱きしめられ、憐憫の情を催すレベルで狼狽えた。 「煙草の匂い、移して悪い」  舜は公園で触れていた髪に鼻先を沈め、最愛なるオメガの温もりを全身で実感し、悦に入った。

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