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「公園だと人目もあって嫌がるだろうから、我慢したんだ。偉いだろ……?」  彼の声を受け止めた耳朶が火照る。深い息遣いまで直に感じ、鳴海は赤面した。 「御堂さん、離れてください……あ、ご飯どうしますか、何か食べますか、お風呂どうしますか」 「鳴海。お前の気持ちをちゃんと知りたい」  腕の輪がさらに縮まった。  舜の温もりに包み込まれた鳴海は、正直に伝えようとして、急激に恥ずかしさが膨れ上がって、はぐらかした。 「あの、終業式の日、チャペルで俺のことを守ってくれてありがとうございます。それから、ランチに行けなくてすみませんでした。約束を破って、ごめんなさい」  胸の高鳴りにどうにかなってしまいそうな鳴海は、目までぎゅっと瞑っていた。  ふと緩まった抱擁。  体の向きを変えられて、おっかなびっくり瞼を持ち上げれば、頭を低くした舜と同じ目の高さで視線が繋がった。 「謝るのは俺の方だ。丹羽達のこと、放置していないで教師に早く報告していれば、鳴海を危険な目に遭わせずに済んだ」 「でも……助けてもらったし……俺は御堂さんとの約束を守れなかった」 「名前がいい」 「……」 「チャペルで呼んでくれただろ」  心の中では何回も呼んでいた。  ひたむきな姿勢で切々と請われて、鳴海は彼に応える。 「……舜……」  自分の名を呼んだ唇に舜は口づけた。  一番初めのキスに鳴海は震えた。  彼と共有する微熱に思考が溶かされていく。その仄かな感触に満たされて、知らず知らず目を閉じる。  たった数秒間のキスに、心に延々と燻り続けてきた不安の火種を忘れ去った。 「鳴海」  舜に名前を呼ばれただけで頭ごと陶酔感に浸かってしまう。大きな両手で顔を挟み込まれると、体の芯までふやけていく、おぼろげな錯覚に溺れた。 「誕生日はいつだ」  予想外の質問に切れ長な双眸は重たげに瞬きする。 「誕生日は……一月です」 「……まだ十五歳なんだな」 「……舜は?」 「俺は四月三日だ」  数秒間のキスでふわふわとしている鳴海を、舜は今一度抱きしめた。すっぽりと懐に閉じ込め、無防備に身を委ねてくるオメガにため息をつく。 「舜が、好き」  腕の中で告白されて、より一層煽られて、それでも踏み止まった。  まだ幼さの片鱗が残る心と体。未熟な彼に欲望を教え込むのは酷だろうと、ブレーキをかけた。 「煙草臭い」 「悪い」 「でも、わからなくなってきた……」  鳴海は心音でも確かめるように舜の胸に頬擦りし、深く長く息を吸い込んだ。 「この匂い。好きな気がしてきた」  新たな葛藤が生まれた日。いつまで待つのか、果たして待てるのか。下手に辛抱すると、結果的に形振り構わず求めてしまうのでは。  十九歳の舜の苦悩を知らない鳴海は「あったかい」と、彼の懐でしばし無邪気に甘えるのだった。

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