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11-1-最終章

「――誕生日おめでとう、鳴海――」  二度の誕生日を舜にお祝いされてきた。  十六歳のときは水族館へ、十七歳のときは美術館の企画展へ二人で出かけた。一緒に食事をしてプレゼントまでもらった。 「もうすぐお前も大学生だな」  三度目、十八歳の誕生日。  凛聖大学の文学部に内部進学が決まり、一息つくどころか入学準備で何かと気が焦っていた鳴海は、先程から強張りがちだった顔を綻ばせる。 「講義で舜と会うかな」 「お前は心理学科、俺は国文学科で同じ文学部だが、一年は基礎がメインになる。三年からゼミ中心の俺とはそうそう会わないだろうな」  恭太郎も同じ大学に進んでいた。経済学部に所属する彼は学業に励む傍ら、長期インターンシップとバイトを掛け持ちし、別の私学に通う高校生の碧からは忙しくて会えないと嘆かれていた。 「タイミングが合えば一緒にランチを食べよう」  嬉しくも、こんなにも緊張するお祝いは後にも先にもないだろうと、鳴海はぎこちなく頷く。  そこは繁華街に建つシティホテルの一室だった。  週末の昼下がりで客の入りは上々らしい、時折廊下から話し声が聞こえてくる。他の宿泊客の気配がする度に集中力を欠いている鳴海は、今更感が拭えない発言を。 「せめて夜になってから……」  実際、誕生日は昨日であった。当日は今まで通り家族との時間を尊重して一歩退き、一日ずらした本日、前もって近場のホテルを一泊分予約していた舜は「夜になっても人の行き来はある」と、鳴海の要望を却下する。  二人は同じベッドに入っていた。  ゆったりとしたダブルルームのキングベッド。夜景が売りだという高層階だが、開放的な大開口の窓はドレープカーテンにきっちり覆われていた。 「……舜、テスト中じゃなかったのか、こんなことに時間を割いていいのか?」 「テストは一昨日に終わった。後回しにしていた三十枚手書き必須のレポートも昨日提出した」 「……やっぱり卒業式の後がいいかも、気持ちが一段落つくというか……」  真上に覆い被さる、ボクサーパンツしか身につけていない舜にじっと見つめられて、鳴海は口を噤む。 「こんなこと、を、俺は長い間ずっと夢に見ていた」

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