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 元より性的関心に疎く、自己処理すら怠っていた。  ウテルス・オメガである自分自身の触り方がわからなかった。  異質な体に快感を求めるのが、ひどくはしたなく思えた。 「もっと感じてほしい」  何の迷いもなく触れてくる舜が恋しくてならない。  ベッドの上で揺るぎない包容力を全開にされて、鳴海は何もかも彼に捧げたくなった。 「んっ……舜……っ」  跳ね除けられた羽毛布団。ベッドの上で仰向けになった鳴海の足元には、舜が居座っていた。  両足の間に落とし込まれた頭が緩やかな揺れを刻む。  先端が控え目に濡れる陰茎に構っていたかと思えば、奥まで悶々と疼く蜜孔を丹念に可愛がる。不意に花芯を啄み、毟る勢いで吸いついてきたりと、欲深なアルファはウテルスの禁域を余すことなく堪能した。 「ッ……また……きそう、かも……」  素直に吐露すれば上目遣いに舜に見つめられ、鳴海は甘ったるい戦慄に犯された。  彼にすっかり懐いてしまった秘部に、一段と甲斐甲斐しい口づけが施される。一度目の絶頂から間をおかずして、再び体が感極まった。彼から与えられる悦びを、ありのまま受け取った……――。 (……不安に思うことがあった……)  舜が全く手を出してこないので、そういう魅力がないのかと落ち込んだ。もしも別の誰かを相手にしていたらどうしようか、ひっそり悩んだ時期があった。  高校二年の文化祭、遊びにきていた舜に思い切って悩みを明かしたら、賑やかだった校内の死角で獣めいたキスをされた。 『つまり、こういうことだ、わかったな?』  そのときはワケもわからずに憮然としてしまったが。 「もっと感じてみろ、鳴海……?」  今の今まで待ってくれた舜に精一杯応えたい。  半身を起こした彼のそばで、鳴海ものろのろ起き上がると、固く結んでいたバスローブの紐を苦心して解いた。 「……もう、いいよ、来ても……」  火照った裸身から蔑ろにされたバスローブ。繊細な質感の肌、痩せぎすとまではいかない、禁欲的なシルエットを生み出す細身の体が露になった。 「待たせてごめん、舜」  自分で決めたことだ。謝らなくていい。そんなことを言う余裕もなく、舜は、愛しくてならないウテルス・オメガをベッドに再度仰向けにした。 「一生見ていたいくらい綺麗だ」 「……」 「誰にも見せたくない」 「見せないよ、こんな……」 「俺の全部を捧げたくなる」 (……舜の、すごい……)  ボクサーパンツを脱いで外気に曝け出されたアルファの熱源。 「あ……」  硬く屹立したペニスが人工の薄膜に覆われる。  膨れ上がった先端で蜜孔をなぞられ、愛液を纏わせて挿入を潤滑にしようとしているのがわかると、鳴海は真一文字に口を結んだ。 「仕切りをつくらず、第二の性の階層を深めず、か」  唐突に舜が凛聖学園のスクール・モットーを復唱した。 「お前が凛聖を選んだ理由。教えてくれなかったから、後で調べたんだ」  出会った頃、四月の中庭で交わした遣り取りに思いを馳せ、回想もできずにフリーズしている鳴海に囁く。 「アルファの俺とオメガの鳴海。今日で完全に仕切りはなくなる……な」  ぐ、と力が込められる。そのままゆっくりと舜は鳴海のナカへ挿入(はい)ってきた。  窮屈な蜜壺が押し拡げられ、育ちきった熱源の息遣いを薄膜越しに感じ取って、切れ長な目は忽ちしとどに濡れた。  念入りに解していたとはいえ、やはり痛い。鉛じみた熱さに気が遠くなった。 「んっ、ぅ……っ……はぁ……っ」  痛みを上回る濃密な悦びに貫かれた。  内壁を擦られる度に禁域全体が疼き、鳴海の声は上擦る。狂おしく締まる蜜壺に我が身を馴染ませようとする、緩々とした舜の動きに、腰の辺りがゾクリと粟立った。両膝を掴んで固定する、肌身に浅くめり込む彼の五指にすら欲情を誘われた。  浅い律動が始まった。 「あ……ん……っ……んっ……」 「鳴海、痛みは……?」 「ッ……痛い、けど……ぁっ、ぁっ……」 「……反応は悪くない」  まだ鳴海に全てを沈めきっていない舜は、低い笑みを洩らす。熟しつつある色香を含んだ声色に追い討ちをかけられ、受け身でいるしかないオメガは、もどかしげに胸を反らした。  ベッドの上でまだ射精を迎えていない、透明な先走りに塗れる鳴海の陰茎に、舜は目を留める。 「綺麗だが、可愛がりたいところが多過ぎて困る」  堂々と惚気て、長い五指をしっかり絡め、しごいた。快感を植えつける激しい愛撫に抗う手立てもなく、純潔を保つ陰茎は慎ましげに吐精する。  舜を迎え入れたまま導かれた絶頂。  律動は中断されていたが、熱く滾る彼のものを勢い任せに締めつけ、目の前が霞む恍惚感に鳴海の思考力は一時麻痺した。 「はぁっ……はぁ……」  呼吸を整えていたら、上体を倒した舜に頭を撫でられた。鼻先や上唇に戯れに齧りつかれ、まだ陶然としている鳴海は、ネコ科の猛獣をぼんやり連想した。 (……ずっと俺ばっかり……)  胎底で息づく昂ぶりに途方もない疼きを募らせて、鳴海は口を開く。 「……もっと来て……」  行き場に迷っていた手を、縋り甲斐のある肩に添え、片時も余所見しないで見つめてくる舜を見返した。 「ちゃんと舜に応えたい……」  鳴海と視線を交えたまま、長い睫毛の影を頬に落とした舜は、繋がりを深めていく。  容赦のない圧に逆らい、奮い立つペニスを根元まで突き入れた。 「ああ……っ」 「これで全部だ……」 「っ……動いて、舜の好きなように……俺も舜に感じてほしい……」  深い律動が始まった。  底無しの興奮に浮かれる鋭い目に見入っていた鳴海は、瞼を閉ざし、しなやかで逞しい体に抱きついた。 「これ以上感じたら地獄に堕ちる」  純潔を失ったばかりの蜜孔の最奥を突き上げられ、危うい程の刺激に咽び泣くように濡れる。 「よくて堪らない。ずっと、ここにいたい」  舜が口にした戯言に心の底から共感した。彼にずっと抱かれていたい。そんな馬鹿げたことを、鳴海は夢見がちに思った。

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