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出入り口を目指し、大股で歩き出した彼に群れのリーダーは逆上する。
人数的に優位とはいえ、揺るぎない迫力に圧されて動こうとしない仲間に舌打ちし、見縊られた歯痒さに唆されるがまま、去りゆく背中目掛けてナイフを振り翳そうとした。
「危ない!」
鳴海は反射的に叫んだ。
思いがけない方向からの大声に群れの面々はぎょっとした。リーダー格の生徒も驚いて足を止める。
一人、冷静でいたプラチナブロンドの彼は、振り向きざま、凶器を握る手に手刀を素早く打ち込んだ。結果、ナイフは呆気なく足元へと叩き落とされた。
「武器があっても、使いこなせなかったらオモチャでしかない」
たった一瞬で凶器を手放させ、痛みで這い蹲って戦意まで喪失した敗者に、彼は肩を竦めてみせる。
そして出入り口へ直行するのではなく、植え込みの陰で硬直していた鳴海の元へやってきた。
「悪い、助かった」
目の前で人が襲われかけた。鼓動が早鐘のように打っている鳴海は返事ができない。
彼はベンチに置かれたスクールバッグを拾い上げ、新入生の腕をとって歩行を促した。何も言えずにいるアルファの群れの間を堂々と擦り抜け、屋上庭園を後にする。
学び舎は西日に浸り、鳴海は彼に誘導されて吹奏楽部の演奏が聞こえてくる階段を下りていった。
「巻き込んで、すまない」
踊り場で立ち止まった彼は、まだ動悸がしている鳴海にもう一度律儀に謝った。
(この人、俺が声をかけなくても大丈夫だったのでは?)
ナイフを突きつけられても顔色一つ変えず、無駄のない俊敏な動作で凶器を叩き落とした姿は、さながらアクション映画に登場する俳優のようだった。
(まさか演劇部の練習だったなんてことは)
「あ……すみません」
かなり上背がある彼からスクールバッグを受け取る。鋭い眼差しと大人びた片笑みを至近距離から浴び、居心地が悪くなった鳴海は、先に階段を駆け下りようとした。
「俺は三年の御堂舜 だ」
尋ねてもいないのに名乗られて、無下にもできず、仕方なく返答する。
「俺は……一年の久世鳴海です」
それだけ告げて逃げるように彼の前から立ち去った。
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