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第11話
「タカギ!ちょーちょ!」
ひらひら、ひらひら、真っ直ぐ進んでくれないから上を見上げたままフラフラと追いかける。
「ハイハイ、蝶々な?チョウチョウ。」
ちゃんと前見て歩けよ~。という声を聞いたと同時に芝生に足を取られてべしゃっと転ぶ。
「うあ、葉っぱちくちくする…でもふかふかあ。」
コロリと寝転べば真っ青な空。視界に入ってきたモノに目を奪われて勢い良く起き上がる。
「タカギ!なんか!ムシが飛んでいるよ!」
「ハイハイ、異世界名物でっかいてんとう虫。スミレ少し落ち着け、護衛も侍女さんたちも気が気じゃないって顔してる。」
最初に転んだ時は護衛さんもメイドさんもこの世の終わりのような顔をして駆け寄ってきたけど、タカギがこれも勉強だからって説得してくれたのだ。
「ほら、頭に葉っぱつけて。もう少し行ったところに休めるところがあるから、お茶にしよう。」
「はぁい!皆休憩?クレイグは?」
クレイグとライさんは朝食後、お仕事へ行ってしまった。
「あいつらは忙しそうだから、また昼食の時。」
「ん。タカギ独り占めだね?」
にへ、と横からくっついてお腹を撫で撫で。ここに赤ちゃんがいるなんて神秘的だ。くっついている僕の髪をぴんぴん引っ張ってタカギが意地悪そうに笑う。
「スミレも赤ん坊のこと家族みたいに思ってくれたら嬉しい。だから、生まれるまでにいろんな事、覚えような?今は沢山遊んで、甘えて、落ち着いたら一般常識の勉強をしよう。」
数年で年齢と精神年齢を合わせられるか…いやでもそれだとスミレが辛いか…?とぶつぶつ考え込んでいるタカギの服を掴んで意識をこちらに向ける。
「じゃあ僕はタカギの赤ちゃんに魔法を教えてあげたいな。ここじゃあんまり使わないけど、あっても困らないもんね?あと、ムシについて覚えて教える!」
「ん?おー。あとはスミレの天真爛漫な可愛らしさとか教えてやってくれ。俺は可愛げがないから。」
ふぅってお腹をさすりながら下を向くタカギのお腹に向かって治癒をかけて顔を覗き込む。
「可愛げって可愛いってこと?タカギは可愛いよ?」
「顔が整ってるのは自覚してるわー。じゃなくて、俺は素直じゃないし、口悪いし、性格に可愛さがないんだよ。前いたところでも幼い頃から愛嬌がないとか、可愛げがないって言われ続けてたし、こんなのが運命のつがいでライオネルが可哀想だ。」
男に愛嬌求めてくんな!と笑って言いながらもその瞳は笑っていなくて、思わず手を握る。クレイグの手とは違くて、小さくて綺麗な手。
「タカギはライさんといると優しい顔してるよ?僕に向ける顔ともクレイグに向ける顔とも違ってライさんの事が大好きって顔。僕でも気づくんだもの、ライさんもわかるよ。それに、ライさんも大好きで堪らないって瞳でタカギのことみてるよ?」
ぽっと赤くなった頬のままこちらを見つめるタカギ。
「だから、タカギはとっても可愛いと思うな。すぐにわかるもん。タカギに可愛げがないって言う人はタカギの可愛いところをただ知らなかっただけだよ。」
ねー?とタカギのお腹に同意を求めると、うにうにっとお腹が動く。良い子ちゃんだね?と心の中でお話して、メイドさんたちが用意してくれた敷物の上にぺたりと腰を下ろす。
「スミレありがと。」
はにかむタカギはやっぱり可愛い。
温かい紅茶とフルーツゼリー。
綺麗なガラスの器に入れられたそれは、太陽の光を受けてキラキラ光る。ぷるぷるしていて、口の中で解れて、カットされたフルーツが美味しくて。
「ん~!不思議!美味しい!」
「流石料理長だな~。めっちゃ旨い。」
ぺろりと完食してそのままズルズルと横になる。
「ふぁ、ねむい…」
「ははっ、今まであんまり動けなかったのに急にあんだけ走り回ったら疲れるわ。少し寝な?」
「んー、でも、もっとタカギといたい。」
色んなものがみたい。
知りたい。
みんなの役に立ちたい。
でも、今は眠い。
「もう、いつでも一緒にいられるんだから。安心して寝とけ。運んで貰うから。」
「ねぇ、スミレの事部屋まで運んでくれる?」
「…申し訳ありません。」
「ん?」
「陛下より、有事の際以外ではスミレ様に触れないようにとのお申し付けがございます。」
「はぁ?あいつ心せま。しゃあない、俺がおぶるか。風がでてきたし、ここじゃ風邪ひく。」
「…申し訳ありません。」
「今度は何だよ、」
「ライオネル様より、タカギ様には林檎より重いものは持たせないようにとのお申し付けが・・・先程陛下にスミレ様が庭園で眠られているとご報告はしましたのでこのままお待ちください。」
「は?あいつらバカ?揃いも揃ってバカなの?」
目は瞑っているけど、まだ眠りには落ちていない。ふわふわと眠気と戦っている時に聞こえた会話に意識が浮上する。
「タカギ、りんごより重いものはだめだよ。もっていいのはカトラリーだけ。」
「なにそれ。」
「ライさんがいってた…」
チッって音がしてハァッとため息。薄目を開ければ、呆れながらもしょうがないなあって顔。
ふふ、早くクレイグ来ないかな。てんとう虫、見せてあげなきゃ。
体が揺れる感じがして、暖かい熱源にしがみつく。
「起きたか?昼食の時間が過ぎたが、どうする?出来れば一度起きて何か食して欲しいのだが。」
クレイグの抱っこ。もう少しこのままがいい。
「ゼリー食べて、お腹空いてないからこのまま寝たい…」
頭を擦り付けてお願いをする。
「そうか、寝たいか。じゃあ寝るか。」
うん、ともう一度微睡みに戻ろうとすると、すかさず聞こえるタカギの声。
「寝るかじゃないわ!そうやってたらいつまでたっても胃が大きくならない。少しでもいいから何か食べないと。スミレ、もう三時間寝てるから、起きて何か食べよう。」
「はい、起きる…」
タカギに言われると素直に動けるから不思議。
「クレイグそんな目で見るな。俺はずっと先生だったんだから当たり前。ある意味刷り込みってやつ。お前には心許して甘えてる。今までは自分の意見を言う機会もなかったんだよ。」
「もうちょっと、抱っこ…」
離れたところが冷えていく。寒い。
「スミレ君、三・四歳の頃からやっと時間が動き出したんだね。抱っこで連れてって食堂着いたらユーシにバトンタッチすれば良いんじゃない?ね?」
クレイグに抱き抱えられながら少しずつ頭がスッキリとしてくるのがわかる。
「ライさん…」
「ん?どうしたの?」
ライさんが歩きながらこちらに近づいてきてくれる。
「タカギがね、ライさんのことだいすきなのにすなおになれなくてかわいくなくなっちゃうってしょんぼりしてた。」
「おい、スミレふざけんな!」
「あと、僕の事おんぶしようとしてた。僕カトラリーじゃないのに…」
「バカ!チクんな!」
「だって、ライさんとタカギが可愛いこと言ってたら教えてねって約束したもの。タカギ可愛いかった…」
顔が真っ赤だ。そろーっとライさんを見上げるタカギはすっごくすっごく可愛いくて、ライさんに何か囁かれてピシリと固まっている。
「お前ら二人で部屋いったらどうだ?」
うん。イチャイチャは仲良しの証拠だよね?
「食事は皆で食べるもんなんだよ!」
「そうだね、皆で食事したら少し別行動しようね?」
仲良しの会話を聞きながらクレイグとお話。
「スミレ何食べる?」
「スープ食べたいな。あと、ゼリー!」
「ゼリーはおやつじゃないか?」
「そっか、おやつかぁ。じゃあ頑張ってパンも食べる。」
「偉いな。食べたら昼寝するか。」
「ん。ぎゅってしててくれる?」
「当たり前だろう。」
ふふ。嬉しい。早くごはん食べちゃわないと。
てんとう虫も見てもらわなきゃ。
やる気が出てきてクレイグに下ろしてもらって手を繋いで食堂まで歩いた。
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