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第14話
「っていうお話をね、クレイグとしたの。」
「バカッ!」
シャキッ、シャキッと軽くて小気味良い音が耳元に伝わる。
またタカギにバカって言われた。意地悪だ。クレイグと入れ替わりにタカギが来てくれて先ほどの事を説明したら怒られた。
食われる…スミレが食われる…とまた、ぶつぶつしてる。
今僕は侍女さんに毛先の不揃いのところを揃えて貰っているのだ。
侍女さんたちは三人がかりで瞳をキラキラさせて僕の髪を切ってくれている。本当はタカギみたいに肩くらいまでの短めにしたかったんだけど…三人+タカギまでしょんぼりするから好きにしてくださいってお願いした。そんな事を回想していると鏡越しに真剣な顔をしたタカギと目が合う。
「でもクレイグが言ったことは本当。お前が傷ついたら、俺も悲しいし辛い。傷つく人が沢山なことも考えること!」
「はい。考えます!ごめんなさい。」
「ん。じゃあこの話は終わり!前髪はどうする?」
どうする?ってどうするの?
顔に出ていたのかわかりやすく説明してくれる。
「はい。侍女のマイリィさん。前髪が目の上で揃ってるでしょ?こっちのココさんは斜め分け。レイラさんは前髪長くて後ろ髪と縛ってるから今のスミレと同じだけどきっちり纏めてるからまた雰囲気違うな?」
「みんな素敵だけど、僕、何が良いかわからないから何でもいいよ。」
「んー、じゃあ今のままで後ろ髪と同じ長さで揃えて貰おう。アレンジしやすいし。」
よろしくお願いしますとぺこりと頭を下げれば楽しそうに「お任せください!」と返ってくる。クレイグは王様なのに全部一人でしちゃうから不完全燃焼なんだって。
「スミレ、終わったら一緒にお昼寝する?まだ眠い?」
「もうね、眠気はさめたんだけど、お昼寝するなら一緒はやめとけって言われたよ。」
「は?心せま~。」
「クレイグの心が狭いんじゃなくてね?この部屋のベッドじゃクレイグの匂いがタカギにいっぱいついちゃってライさんに匂いの上書きされるのが目に見えてるって。」
「うわ、めちゃくちゃ想像できる…じゃあこっちの部屋来る?」
あ。それも…
「さっきまで僕とクレイグくっついてたからタカギたちのベッド使ったらやっぱりクレイグの匂いついちゃって、それが自分の部屋とか身が持たないぞって言ってた!タカギの!」
「うへぇ。それも想像できるわ。ってかクレイグ自体もそれが嫌で風呂も入れずにそのまま匂い付けてるだろうし…今度一緒にゴロゴロできる部屋用意してもらお。俺たち人間だから匂いとかわからないしまじ困る。んじゃ今日は髪切り終わったらヘアアレンジして遊ぼ?もうすぐ夕食だし。」
侍女さんたちおめめが更にキラキラだ。
「俺が出産ってなったらこの三人が身の回りとかしてくれるからなー。」
「そうなの?よろしくお願いします。タカギもうすぐ赤ちゃんうまれるの?」
侍女さんたちから丁寧な挨拶は受けていたがそれは初耳だったのでもう一度頭を下げれば優しく止められる。
「おー。あと一月ちょっとでうまれるかもって言われてる。腹も凄い出てるし。」
確かにタカギのお腹はもう弾けそうだ。ワンピースのような服を着てるけど細身のタカギのお腹はパンパンで、僕にはあと一月もお腹に居られるとは思わない。君も早く出たいだろうしね?心の中でそう問えばうねうねとお腹が波打つ。
「ぐあっ!今超動いた。」
ぺしぺしと優しく嗜めるタカギの手の甲に自分の手を添えて力を送り込む。お腹の張り?なくなったかな。
「ごめんね?僕が話しかけたから。」
「スミレさ、この子と話せるの?こないだも反応してたよね!?」
「うーん、お話は出来ないけど何となく雰囲気はわかるかも?さっきもタカギがお腹ポンポンしたら何だか幸せそうなのが伝わってきたよ。」
赤ちゃんタカギのこと大好きなんだね?って言えば珍しくふんわり笑顔。見てる僕と侍女さんたちもふんわりふんわり。
「獣人の赤ちゃんってどういう風にうまれてくるの?」
「何か色々みたいだよ?完全に獣化している事も部分だけの事もあるみたいだし、俺たちはヒトの場合もあるだろうし。だよね?」
侍女さんたちにタカギが問えば皆頷く。
マイリィさんもココさんもレイラさんも皆子育ては終わったらしい。
「一般的に獣の姿で生まれたら大人になっても獣化できますね。陛下やライオネル様も生まれたときは狼の赤子だったと思いますよ。」
うんうんと頷きながらレイラさんの話を聞き入るタカギ。
タカギ的にはヒトの赤ちゃんにケモミミがついてるのが一番もえるらしい。赤ちゃん燃えるの?ちょっと怖い…それにしても
「クレイグが赤ちゃん…真っ黒で小さな狼さん。可愛かっただろうなあ。見たいなあ…」
「それは、スミレ様がご懐妊するのが楽しみですね!」
はしゃぐマイリィさん。
「僕?何で?」
「生まれたばかりの陛下はもう見ることが出来ませんけど、陛下とスミレ様に子が出来たら黒狼が生まれることもあると思いますよ?」
「僕がおかーさん…」
想像つかないな…今も子供みたいにみんなにお世話されてるし…
複雑な表情をしていたのか、タカギが毛先を揃えて香油をつけて貰ってサラサラになった髪に指を入れる。
「俺はスミレの先生だから、先生の俺がある程度子育てというものを経験してみてからスミレにも出来るか判断してやる。でも、まぁ、子を持つことだけが人生じゃないよ。俺は今幸せだけど子供が出来て不幸になる人だっているんだから。俺の親も完全後者。」
「そうですよ。それに絶対に黒狼が生まれるという保証はありませんし。マイリィも予測で言葉を発しないように。」
しょんぼりとしてしまったマイリィさんだったけど、タカギが先ずはスミレに子供時代を経験させて成長させてあげたいからこそのこの人選って言ったら瞳をうるうるさせて「お母さんになります!」って意気込んでくれた。何のお母さんになるの?そう問えば「うふふ」って微笑んでくれるから僕も嬉しくて「ふふっ」って笑ったら何故か着せ替え人形になった。
着せ替え人形ごっこにタカギも巻き込んで、着せてもらったこの服は異世界ではチャイナドレスというらしい。長袖でスリットが深く入っているけどタカギはお腹に余裕のあるものを着て、弛い白いズボンを下に穿いて、「めっちゃ楽~」と寛いでいる。
タカギが綺麗な薄い緑色で僕は白。白は汚れるんじゃないかなって思ったけどクリーンすればいっか。良くわからなかったけど、スミレ色の髪が映えるかららしい。何ならもう着替えたくない…とちょっぴりぐったり。侍女さんたちは
「スミレ様がいらっしゃって、タカギ様も着飾ることが出来て感無量です…!」
と涙ぐんでる。タカギに聞いたら僕がくるまで他人拒否!なやさぐれた時期があったんだって。それで妊娠して今度はライさんが
そわそわおかしくなっちゃってタカギを出さない時期もあったりで。そのまま戦争始まって…で、ここにきて着せ替え対象が二人に増えて侍女さんたちはハッピーらしい。
にこにこは嬉しいね?そう言えばそうだなって返事がきて嬉しい。
僕の髪は一度ほどいたからタカギがまた高い位置でひとつに縛って、その髪を三つ編みに。侍女さんが可愛いってきゃっきゃしてる。
僕もタカギの髪を弄りたくて侍女さんに教わってサイドの髪を編み込みに…したかったけど難しくて前髪を三つ編みしてこめかみあたりにシンプルな飾りのついたピンでとめた。飾りの色は勝手にライさんの瞳の色を選んだ。綺麗なエメラルドグリーン。
前髪を三つ編みするから座ったタカギの目の前で何度も解れてしまいながらやり直した。
僕の顔をみて吹き出すタカギに気を取られながらだから大変だったけど可愛い可愛いとライさんに褒められまくって照れ隠しにライさんの足を踏みつけてるタカギが見られたから良しとしよう。
「だから!違うから!スミレがやったし選んだの!」
ライさんが手をぐってしてくるからクレイグに手伝って貰って指を動かしてぐってした。いいね!とかやったね!って意味らしい。
「スミレも可愛いな?」
「ふふ。髪の毛しっぽみたいでしょう?」
「この服も良く似合っている。二人の時以外はちゃんと下にこういうの、穿くんだぞ。」
こういうの、とはタカギが弛いズボンだけど僕のはぴたっとしたこれ一枚では穿けないようなものだ。このスリットで何も穿かないのもどうかと思うので素直に返事をした。
手を繋いで夕食を取りに行って、タカギたちとおやすみの挨拶をする。
「タカギ、明日も僕が三つ編みするね!」
「ハイハイ。また明日ね?おやすみ。」
ライさんにも挨拶をしてクレイグと自室に戻る。
ふぁ。今日も楽しかったなあ。
もう眠くて眠くて、お風呂もクレイグに手伝って貰いながら何とか洗って湯船につかる頃にはこっくりこっくりしてしまってクレイグに「眠って良い」と濡れた前髪をかきあげられて幸せな気分のまま眠りについた。
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