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クレイグ視点 2
タカギが求める事は、スミレが公式に、堂々とこちらへ来ること。無理矢理連れてきたら、どうなるかは予想出来る。
「ずっと隔離されてるし、アホだけど、バカみたいに素直で可愛いんだ。結界を張るのを止めたら、どうなるかわかってるから絶対止めないと思う。戦争は嫌だって言ってたから。」
「あれだけの結界が張れるのなら、彼自身で何か出来る手がありそうじゃない?」
「結界だけにしとくように言いきかせてある。下手に色々出来ると知られたら、確実に人間兵器だ。…スミレは、自分に名前が無いことさえ不思議に思わないような環境にいるんだよ。心が壊れたら良い様に使われて終わりだ。」
「名前…そっか…そのスミレって名は?」
「名前は必要ないって言われてるって言うから、俺がつけた。」
タカギとライオネルの会話を聞いて、思わず唸る。
「やはり経済制裁か。隣国が経済的に追い詰められ、援助する為にあの子を差し出すように要求する案が第一候補だな。」
「それも、暫くは出来ないだろ?俺と支援のトレードだったんだから。しかも、かなりの苦境にならないとスミレは差し出さないと思う。」
「…三年だ。三年で事が上手く進まなければ、戦でも何でもしてやる。」
「じゃあ、そうならないように、国外諸国に協力を仰がないと。勿論、腹心は探らせないように上手くやるよ。」
「すまないが、頼む。」
「クレイグの為もあるけど、殆どユーシの為だよ~。ね?」
「ありがとう。俺も一応神子らしいし、こっちきたら何かあると思うんだよね。一応ね?落ちて来てから、ここ15年くらいは豊作続いてたし。」
タカギの一言に、思わず凝視してしまう。
「タカギはいくつなんだ?」
「は?内緒~。」
人差し指を立てて笑うその顔はやはり悪どい顔にしか見えない…が、ライオネルはしっかりとその瞳に焼き付けているようで、目尻をこれでもかと下げていた。
その後、タカギから詳しく話を聞いたが、胸糞悪くなる話ばかりで、今すぐにでも戦争を吹っ掛けたくなる。
俺のつがいは親もなく、名前もなく、話し相手もおらず、たった一人で塔に閉じ込められて結界を張り続けている。タカギと出会ってどれ程安堵しただろうか。そのタカギもこちらが要求した為にもういない。
「…タカギを要求したのは浅はかだったか。悪い。」
「いや、魔力封じられてなくても逃げるくらいは出来たよ俺。でも、逃げなかったのはスミレが大切だから。それでも俺だけじゃもうどうにもならなくなって、とりあえずこっちで助けを求めてみようと思ったんだよ。獣人には悪い奴はいないかなって。俺は自分でスミレを置いて、ここに来た。だから謝られる事は何もない。」
「いや!駄目だよユーシ。獣人にも悪い奴はいるんだから!お願いだから用心してよ?」
「ハイハイハイハイ。クレイグ、悪いと思うなら、こいつの過保護どうにかして。」
「いや、つがい以外は敵くらいに思っていた方が良い。」
「お前らやべーな…」
呆れたような顔のタカギだが、表情がガラリと変わる。
「あのさ、スミレ、洗脳されてたの。幼い頃から閉じ込められてたから当然っちゃ当然だけど…俺も三年が限度だと思う。洗脳ってわかってても孤独を感じているとマインドコントロールされやすい。俺みたいな心の拠り所みたいなのを用意されたら危ない。今は放置されてるけどさ…」
「心の揺らぎも少しなら結界を通して感じられる。昨日は少し不安定だった。タカギがこちらへ来たからだろうが、今は落ち着いている。小まめに状況を確認しながら、期を待つ。それで良いか?」
各々が、今出来る事を。それからは一日が過ぎるのがとても速く感じた。やる事は膨大だ。その頃にはタカギは何とか結界を破こうとしていたが上手くいかないようであり、焦りもあった。
だが、タカギがこちらへきて一年で、隣国は記録的な不作の年を迎える。何も出来ない神子として扱っておいてこの様かとしか思わないが、タカギの返還要請もなく、彼のおかげで今まで豊作だったという考えに及ばないなんて救い用のない馬鹿だと乾いた笑いしか出てこなかった。
三年、と決めてからもうまもなく二年半が経つ。
ここ最近はタカギを見ていない。腹にライオネルの子がいるからだ。
一月程前に、タカギの食事に媚薬が混ぜられた。
その日はたまたま俺たちは政務が立て込んでいて、一緒に食事が出来なかった。ライオネルの想いを知らぬ者は居らず、ライオネルの役に立ちたいと、勝手に混入した。タカギはヒトで、異世界からの落ち人で。それなのにあろうことか考え無しに、獣人用の媚薬であった。
過剰な容量と身体の拒否反応。いつまで経っても治まらず、医師や魔術師たちの見解は、タカギの中に精を出すことであった。
男同士であれば、直ぐに子が宿ることもないだろうと言われたが、あいつらは話し合い、正式につがいとなった。
交わうことでタカギの身体は落ち着いたが、使用人から食事に混入されたことは心に深い傷を負わせた。
食事自体もライオネルが手ずから食べさせないと口を開かない。夜は眠れなくなり、身体を求め、気絶させるように眠らせていると。それもあってか、直ぐに子が宿ったとライオネルは、悔しげに、もう少しゆっくり事を進めたかったと溢した。
「子が宿ったのは、二人とも凄く嬉しいんだけどね?」
「政務は気にせず、暫くはタカギに着いてやってくれ。」
「…ありがとう。ねぇ、犯人は?」
「地下牢へ拘束してある。」
「わかった。…ユーシから伝言。あの時、俺を要求したことをまた後悔してるなら、見舞いにスミレを連れてこい!だって。」
「…お前のつがいは強いな。」
「クレイグのつがいの先生だからね。誇らしいよ。」
ライオネルと別れ、あの子の結界に触れる。
触っても何も起きない。ただ、硬い壁に触れているようだ。
近頃は毎晩ここへ来て、あの子を感じる。
日課となってしまった、獣化しての実力行使。存在に気づいて欲しくて、ガツンガツンと音を立ててぶつかる。
途端に僅かに揺らぐ気配がした。
「ウォーン」
この遠吠えが届いていたら、返事が欲しい。
もう、待てない。
もう、良いだろう。
時は来たのだ。
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