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第2話 初恋の人

<あの人に恋をした日から、僕の人生は混沌(こんとん)とした世界に変わってしまった…>  薄っすらと笑い、どんなに望んでも手に入らなかった、愛しい人との思いでに… 最後にもう一度だけひたろうと、ペルデルセは瞳を閉じた。 『アンダル! なぜ、僕の護衛騎士を辞めてしまうの?』  近衛騎士団に所属し、幼い頃からずっとペルデルセの護衛騎士だったアンダルを中庭で見つけて、あわてて呼び止めた。   『申し訳ありませんペルデルセ王子… 私はアルファですから、もうすぐ大人になるあなたの護衛は出来ないのです』  陽光を集めて溶かしたような、キラキラと光る金の髪に優しい空色の瞳をペルデルセに向けて、初恋の人は困った顔をする。 『でも僕はアンダルが良いよ!』  14歳のペルデルセは子供の頃のように、ゴツゴツとしたアンダルの大きな手を、ギュッ… と捕まえて我がままを言った。 『もう少しすれば、あなたは初めての発情期を体験するでしょう、その時私のようなアルファが側にいるのはとても危険なのです』 『でも、でも、アンダルが良いよぉ!!』 『どうか、お許しをペルデルセ王子』  ふと目を開けるとペルデルセは自分の手を見下ろし、“彼”の大きくて暖かい手の感触を思い出し… 愛おしむように、彼に触れた華奢(きゃしゃ)な自分の手を組み合わせた。  再び瞳を閉じ、ペルデルセは切なげに眉間にしわを寄せる。  王宮主催の舞踏会でペルデルセはアンダルを見つけ、近くの空き部屋に引っ張って行き、暗い室内でもお互いの顔が見えるように、月明りが差し込む窓際に立ち話をした。 『おめでとうございますペルデルセ王子、エスタシオン王国のプラサ陛下との婚姻が決まったそうですね?』  空色の瞳を穏やかに(なご)ませて笑うアンダルに、ペルデルセは懇願(こんがん)した。 『お願いです、アンダル! 1度で良いから僕を抱いてください! 最後のお願いです!』  初めての相手はアンダル以外、ペルデルセは考えられなかった。  恋多きふしだらなオメガの王子と、社交界で噂ばかりが大きくなっていたが… 人前で(たわむ)れることはあっても、実際にオメガの王族を抱こうとするアルファは一人もいなかった。  そもそもアンダルの気を引きたくて、ペルデルセは“彼”の前でわざと、誰かとイチャついて見せただけなのだ。 『無茶を言わないで下さい…!』  視線をそらし、アンダルはペルデルセの懇願を拒絶した。 『ずっと僕があなたを好きだったことを、知っていたでしょう?』  子供の頃から憧れていた広い胸に手を置き、ペルデルセはひたすらアンダルだけを真摯(しんし)に見つめ続けた。 『だから、ダメなのです!』  見つめ続けるペルデルセの視線を避けるように、アンダルは瞳を閉じて、顔を背けてしまう。 『どうしてダメなの? アンダル、どうして?!』 『私があなたを愛しているからです! アルファの執着、独占欲… 本能をあなたは何も分かっていない!』 『アンダル…!! 本当に? 本当に僕を愛しているの?!』  ペルデルセの胸は歓喜(かんき)でふくらみ、ドキドキと心臓が暴れ出し破裂しそうだった。 だが… 『どれだけ望み、願っても… 私の身分ではあなたと結婚も出来ないのですから… どうか… どうかこれ以上… 私を苦しめないで下さい! ペルデルセ王子!!』 『そんな、アンダル! アンダル―――ッ!!』  自分の胸に置かれたペルデルセの細い手をギュッとにぎり丁寧に下ろすと… アンダルはペルデルセの前から立ち去った。  その後すぐ、家督(かとく)を継ぐために、アンダルは婚約が決まったと聞かされたのだ。  ペルデルセは絶望し、ようやく… 長く、愚かな、初恋を諦める決心をした。

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