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日常とすれ違い③※
慎司が残ると言えば、他の兄弟たちは残らずに出かける。これはほぼお約束のようなもので、真夜は必ず残らなくてはならない。
部屋の隅っこで蹲っていた彼は、今日はしたくないという意志をどうやって伝えればいいか思い悩んでいた。
テーブルで雑誌を読んでいた兄が立ち上がり、床を素足で歩く音が聞こえる。その音はどんどんと近づいてきて、やがて真夜の腕に暗い影を落とす。
「お金あるじゃん……どうして払うって言えないの?」
どっ、どっ、と心臓が早鐘を打つ。握りしめた腕に込める力が強くなった。
冷や汗を浮かべはじめた真夜と視線が合うように、しゃがまれる。いい迷惑だ。
「言えないか。男とセックスして稼いだお金だもんね」
天井を見上げて事も投げに言いながら、慎司は煙草を口に咥える。
細長い指先が真夜の頬をなぞる。頬に文字を書くように何度も撫で上げられ、汗がじんわりと背中に滲むのが分かる。
「兄さんだって、俺でヌくじゃん。おあいこ、でしょ」
途切れ途切れに弱弱しい抵抗を言えば、兄の声が低く変わっていく。
「へ―……もう一度言えよ」
兄から感じる張り詰めた空気は息を吸うことさえ阻む。己の手が震えだすのを眼下に見やった。
「もう一度言え」
胸ぐらを掴まれて引き上げられる。かち合った視線の先の兄は、温度を失った冷たい目をしている。凍てついた黒曜石は真夜を瞳の中に囲っていく。
「真夜ぉ……俺はお前が可愛いんだ。可愛いお前に、酷い真似はしたくない」
かちかちと歯の根が合わなくなってきた。
兄は嗤っている。だが、瞳の奥底では笑みなど浮かべていないのだ。
「この世の中、お前には残酷だ。わかっているだろ?今まで酷い目に合ってきた。そうだろ?俺がずっと守って来てやったのに」
「にい、さん」
時間を掛けて首を締め上げられていく。息が切れ切れになっても、慎司は止めない。細首を握る力を緩めない。
「もう一回言えよ、真夜」
ひゅう、ひゅうと風を切るような息を吐き、まなじりに微かな涙を浮かべた。涙を認めた彼は、何を思ったのか。突然、片手で真夜のズボンを引きずり下ろした。ゴムの緩いズボンは下着も一緒に巻き込んで下ろしてしまう。
膝立ちになった真夜の下半身を見て、慎司は声を上げ嗤った。
「はは。お前のチンコ、がっちがち。罵倒されて勃起させんなよ……ドマゾ野郎」
「ひ、ぎぃ、ッ……!」
首を絞めていた手が股間を乱暴に握った。既に先走りが漏れていたせいで、にちゃっと濡れた音が出る。モノを扱うみたいに乱暴に上下に扱かれていく。
「昨日は何人とヤッたの。十人ぐらい?締り弱くなってる?」
「して、ない。してない」
先端に爪を立てられ痺れるような痛みが走る。慎司の性交は優しさが無い。いつも乱暴で、子供みたいに加減を知らない。
「ごにん、ごにんだけ」
「……つまんね」
ゴミ袋みたいに乱暴に投げ捨てられた。せき込む真夜を見下ろしながら、彼は煙草の煙を吐き出す。脂臭いと、また真之介に怒られるだろう。
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