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第16話 翌日

 トンッ… トンッ… と誰かに肩をたたかれ、アユダルはふと目覚めた。 「この部屋の掃除をしなくてはいけないから、そろそろ起きなよ… もう、昼過ぎだよ?」 「んんんん…?」  ベータの女性使用人に声をかけられ、アユダルは(だる)い身体をノロノロと起こした。 「おやおや! あんた、ずいぶん客に気に入られてようだね?」  けらけらと笑いながら女性は、ベッド脇の椅子に掛けてあった服をアユダルに渡した。 「何で?」  渡された自分の服をごそごそと着ながら、アユダルは女性にたずねた。 「自分の胸を、見てごらんよ?」 「……胸?」  言われるがまま、アユダルは自分の胸を見下ろすと… 昨夜レウニールの愛撫で付けられた無数の(あと)を見つけ、ハッ… と息をのみ顔も身体も真っ赤に染めて、服を着て慌てて素肌を隠した。 「客に気に入られたのは良いけど、その痕を消さないと次の客は取れないよ? 早めに治療師様の所へ行って消してもらうと良いよ」 「それなら大丈夫です… 自分で消せるから…」  それにレウニール様は、今夜も僕を抱きに来ると言っていたし…    自分の手首にはまる、発情と誘惑フェロモンを抑制する、魔法が組み込まれたブレスレット形のリングに触れて、アユダルは昨夜のことを思い出し、ふわりと笑った。 『アユダル… 私はいったん帰るが、明日… いや、今夜もまた来るよ… お前は私のせいで発情期に入ってしまったようだし、責任を取らないとな!』 『レウニール様、本当ですか?!』 『ああ、本当だ! まだまだ、お前を抱き足りないからな』 『やったぁ! レウニール様ぁ、嬉しいよぉ!』 『だからアユダル、他の客を取らずに、私を待っていてくれ』 『はい!』  夜明け前、レウニールは服を着て自分の抑制リングをはめると、アユダルの手首にも抑制リングをはめて、約束してくれた。  レウニールの痕が派手に付いた、自分の胸にてのひらを当て、アユダルは名残惜(なごりお)しかったが治癒魔法を発動させ… 綺麗に痕を消す。   「まぁ! あんた、治癒魔法が使えるのかい? 珍しいね?!」 「うん、軽いケガに効く魔法しか知らないけど、祖母に習ったんだよ…」  胸の次は下腹に手を当て、アユダルは昨夜レウニールの性器を受け入れて、鈍く痛むオメガの性器に治癒魔法をかける。 「ふう~ん… ねぇ、だったら階段に近い部屋に、昨夜、客にひどくやられて、動けなくなっている子がいるんだよ… 自分で動けないから治療師の先生に会いに行くことも出来ないし、少し見てやりなよ?」 「んんん? 良いよ… あんまり重いケガは治せないけど… 階段に近い部屋だね?」 「ああ、かわいそうだから頼むよ…」 「うん、わかったよ」  使用人の女性に言われて階段に近い部屋へ行くと… 血だらけになったベッドの上に、眠っていたのは… 客に殴られたらしく、顔を()らした、昨夜アユダルに親切にしてくれた先輩男娼のフルタだった。 「フルタ?! ああ… 何てひどい…!」  顔を真っ青にしてアユダルは、フルタに声をかけると… 「ううっ… ん……?」  切れて血がこびり付いた唇から、フルタは苦しそうにうめき声をもらす。  アユダルが額に触れると、殴られたせいで、フルタは発熱しているようだった。

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