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第17話 治療

 上掛けをめくり、アユダルが先輩男娼フルタの身体を見てみると… 細い首には大きな手で絞められた指の(あと)があり、手と足には縄で縛られた形跡まで残っていた。 「何てひどい… こんな…っ!」  抱かれたというよりも、まるで拷問でもされたかのような姿だ! こんなひどいことをするなんて… 相手の客は絶対に、悪魔に違いない!  もしかすると、フルタが怖がって抵抗したのかもしれない… 身体中殴られただけではなく、背中にはブーツの金具形の(あざ)まである!! 床に転がったフルタを何度も()り上げたんだ?! 「・・・っ」  恐る恐る、裸の下半身を見てみると、アルファの性器を受け入れた、オメガの性器から出血していて… アユダルの小さな目から、じわっ… と涙が込み上げてきた。  フルタの下腹に手を当て、アユダルは慎重にケガの状態を、魔力を使った目で見た。  生前、祖母がアユダルに治癒魔法を教えた時、口癖のように言い聞かされた言葉を思い出す。 『よくお聞きアユダル、ケガは早く治そうと思ってはいけないよ! その前に間違いがないよう、ケガの大きさをしっかりと見極める必要がある』 『見極める?』 『そうだよ、人間の身体はとても繊細に出来ているから… 痛いから早く治せと患者に急かされても、絶対に急いではいけないんだ』  丁寧に…! 確実に…! それから、僕に治せないと思うケガは、絶対に魔法をかけてはいけない! 中途半端に未熟な治癒魔法をかけると、身体の組織が変異して他の治療師なら治せるケガも、治せなくなってしまうから… だよね? お祖母様…    魔力を通してフルタのお腹の中を見ると… 性器が裂けて黒ずみ、今もじわじわと出血し続けているのが分かる。 「いけない! このままでは出血多量で死んでしまう! 今すぐ傷をふさがないと! でも、こんなに深い場所にある大きな傷を、僕は治したことが無い!」  恐らく真夜中にフルタは、客の暴力を受けてケガを負った。  今はもう昼過ぎだから… もう半日過ぎている! 今から治療師を呼びに行って、急いで連れ帰っても… 早くてもたぶん夕方近くになってしまう。  黒ずんだ性器を見ると、フルタにそこまで待てる時間が、残されているとはとても思えない! あったとしても、たぶんギリギリだ! 「どうしよう?! どうすれば良い?! お祖母様! このままではフルタは死んでしまうよ?! この血を止めないと!!」  青ざめたフルタの顔を見ながら、アユダルは必死に考えを(めぐ)らせる。  ゆっくりと新呼吸をすると、アユダルは自分の頬を両手で、パンッ! とたたいた。 「裂けた場所だけを、とにかくふさいで… 性器に血が巡るようにしないと! 大丈夫、僕には魔力が充分あるから… 無いのは経験だけだ! やる気と集中力さえあれば、きっと助けられる!!」  自分に言い聞かせると、フルタのお腹の中をもう一度魔力を通して見ながら、アユダルは治癒魔法を慎重にかけてゆく。  今は裂けた場所をふさぐ! それだけに集中しよう! それ以外のことは考えない!!

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