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第19話 王太子との面談 レウニールside

 明け方娼館から帰宅し、数時間の仮眠をとった後、毎日の日課である弟の剣を使い鍛錬(たんれん)をしていると、執事に来客の訪問を伝えられた。 「旦那様、王太子殿下がお見えになりました」 「ああ…… わかったよ」  ハァ―――ッ… とため息をつき、剣を(さや)におさめると… レウニールは自分の服装をチラリと見下ろし少し迷う。  殿下はいつも、お忙しいかただから… 私の無礼な服装よりも、私の着替えを待たされるほうが、きっと不愉快に感じられるだろう。  弟の大剣を執事にあずけると、レウニール自身は鍛錬時に普段から着ている、質素なコットン・シャツとすり切れた革のベストにそろいの下衣、騎士用のはき古したブーツ姿で応接間へ向かった。  応接間の扉の前には王太子の護衛役、白騎士団所属の騎士… 通称、白騎士2人が立っている。  本来なら護衛対象の王太子殿下とともに、室内に入り護衛するのだが… 恐らく殿下自身が、私と2人っきりで話をしたくて白騎士たちに、外で待機するよう命令したのだろうな? 「2人ともご苦労」 「ご無沙汰(ごぶさた)しております!」  白騎士団に所属していた頃の部下たちに声をかけ、うなずき合うとレウニールは応接間の扉を開く。 「お待たせしました殿下」  応接間へ入り軽く頭を下げ、レウニールが挨拶をすると… 王太子アニマシオンは、おや? という顔をする。 「久しぶりだなレウニール! どうやら剣の鍛錬の邪魔をしたようだな?」 「いいえ…」  学園生時代から付き合って来た、友人同士の気安さから、王太子が座るソファセットの向かい側に、レウニールは断りなく腰を下ろした。  「その様子だと、そろそろ騎士団に戻る気になったか? どうだ、レウニール?」 「殿下には正直に言いますが… このまま隠者(いんじゃ)として、一生を終えるのは罪深いことかもしれないと、少し迷っています」 「ほぉ… 迷っているか?」 「はい、家族と婚約者の命を奪った魔獣を殺す術を、私は知っていて、その能力もある… 亡くなった人たちに、罪の意識を感じているのなら、私の力を魔獣退治に役立て、これ以上魔獣による犠牲者の命が奪われないよう守り、戦うことでしか罪(ほろ)ぼしは出来ないのではないかと」 「そう思ったのなら、お前は前に進む時期が来たのさ! それに私の話を聞けば、お前は絶対に騎士団に復帰する気になるはずだ」  いつものように、相手に心を読ませない軽い口調の王太子だが… ピリピリと緊張感をただよわせているのが、長い付き合いのあるレウニールにはわかった。 「私が絶対に復帰したくなる… ですか?」 「大賢者が未来視(さきみ)の魔法で… これから3,4年の間に魔王が復活すると予言をした」 「なっ?! 魔王とは… 200年ごとに復活するという、あの魔王ですか?!」  衝撃を受けたレウニールは、ソファから立ち上がり、テーブルに手をついて前のめりになる。 「そうだ! まだ、正確な時期は特定できないそうだが… 間違いないそうだ」 「私たちが生きている間に、その時が来るのではないかと、予想はしていましたが… 少し早いですね?」 「ああ、前回の魔王討伐(とうばつ)から、まだ180年だ…! 私も驚いている… だから信頼できる者たちで、私のまわりを固めておきたいんだレウニール」 「殿下…」 「確かに他にも味方はいるが、ほとんど利害関係で繋がる味方ばかりだ… お前のように確実に裏切らないと、信頼出来る友人は案外少ない」 「はい… 殿下の心中、お察しします」 「だからお前に、私の背中を守ってほしい!」 「お任せ下さい、殿下…」  確かに、殿下の言う通り… 前に進む時期が来たのだな?  王太子アニマシオンの前で(ひざまず)き、誠意を込めて胸に手を当て、レウニールは忠誠を誓う。

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