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第23話 治療師プロプエスタ
2人の男娼にアユダルはずるずると引きずられるように、娼館の一階まで下りると、テーブルでお茶を飲んでいた初老の女性オメガと、引き合わされた。
「治療師様! こいつがフルタに治癒魔法をかけた奴です!」
「うわっ?! 痛っ…!」
ドンッ… と背中を押されて、アユダルは固いテーブルにゴツンッ…! とにぶい音を立て身体をぶつけてしまう。
「もう、危ないだろう?! 押すなよ!」
2人の男娼に怒鳴り、アユダルは振り返ってにらみつけようとするが… 自分たちの役目は終わったと、男娼2人は大あくびをしながら、アユダルを無視して去って行く。
「クソッ! 何なんだよ、あいつら!」
イライラとアユダルが罵 ると…
「悪いね、あんた! 私が無理を言って、昼間は寝ているあの子たちを起してもらったから、少し機嫌が悪かったようだ…」
治療師の女性オメガから、先に謝罪の言葉を口に出され、さすがにアユダルもイライラを引っ込め… 初対面の年上女性の前で、自分の態度は無礼だったと反省する。
「い… いえ! 僕の方こそ、初めてお会いするあなたの前で、汚い言葉を使ってしまい、すみませんでした… 僕は、アユダルと申します!」
「私はこのあたりの娼館や客、主に平民たちを相手に治療師をしているプロプエスタと言う者だよ… まずは座りなよ、アユダル… お茶とチェリーパイで良いかい?」
「え? あ… はい!」
「話の前に、まずは腹ごしらえをしよう! 私は空腹なんだよ」
治療師プロプエスタは、お茶と一緒に昼食がわりのぶ厚いチェリーパイを2人分注文し、もりもりと女性にしては豪快 に食べた。
「それであの、フルタのお腹の中… 僕の治癒魔法は上手く効いていましたか? 僕は素人なので、あんなに大きなケガを治したことが無くて… でも…」
目覚めたフルタ本人にも、性器の調子はどうかと、たずねてはみたけど… 痛くないから大丈夫と言うだけで、実際のところ、本当に大丈夫なのかが、僕には分からない。
忘れた頃に、フルタの身体に不具合とかが出てきたら可哀そうだし… それがすごく不安なんだ!
「うん、治療は上手くいっていたけど… あんだけ魔力を注いで治癒魔法で満たせば、上手くいかない方がおかしいぐらいだよ!」
「なんだ! ああ… 良かった!」
「いや、良くないよアユダル! フルタの腹を診て、あんたに魔力が豊富にあるのはわかったけれど… もう少し魔力の配分を制御しないと、すぐに魔力切れを起こして倒れてしまうよ?!」
「ええ… でもそれは、僕は正式に治癒魔法を習ったことが無くて… 祖母が生前教えてくれた知識と… その祖母が僕に残してくれた本で見た知識だけが頼りだったし… その本も、借金の代わりに取られてもう僕の手には無いですから…」
父は治癒魔法が使えなかったけれど… 孫の中でもオメガの僕だけが使うことが出来たんだ。
その治癒魔法を教えてくれた祖母は、治癒魔法で有名なエスペホ家出身のオメガだから、正式に習ったらしいけど… でも治療師として働いた経験は無いらしい。
うう… こんな未熟な僕が、フルタの治療をしたのかと怒られそう! だってすごく危険な行為だと、僕だって自覚しているし… 治す自信があって、フルタの治療をした訳でもないし…
おずおずとアユダルは、治療師プロプエスタに言い訳をした。
「なるほど! 大体あんたの事情は分かったよ… そこでだけど、私の下で見習い治療師になって働かないか? 私があんたに足りない知識を教えるから… その気があるなら、私が娼館の主人と話をつけるし、そこは安心すると良いよ?」
「えええ?!」
「フルタにも聞いたけど、あんたは内気で、男娼向きの容姿ではないしね? 将来的に考えても、治療師の方が多く稼げるから、男娼をするよりも、治療師の方が借金も早く返せるし」
「それは… 僕もそう思います」
レウニール様は僕を可愛いと言って下さるけれど… でも、それはレウニール様がお優しい方だからだと思うし… 普通は僕を良いと思う人はいないよね…?
「最近は患者が増え過ぎて、私一人では手に負えなくなっているんだ… だから、あんたみたいに治癒魔法が使える子は貴重でね! 貴族社会にいると、子供を産む道具のようにあつかわれるオメガは、下品だとか尻軽だとか言われて、働くことが許されないけど… でも平民相手なら、そういうのは無いから、あんたの能力次第だよ?」
「・・・・・・」
僕に悩む必要なんかない… だってプロプエスタ様が言っていることは、何もかも真実で正しいことだから。
今のままでは、僕はお金を稼げないし、借金も返せない。
客に抱かれることよりも… 治癒魔法の方が上手くできると、僕だってわかっている。
でも、胸がすごく痛むんだ。
レウニール様のことを思うと… 胸が痛むんだ。
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