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第32話 レウニールの思い レウニールside
アユダルが治療した手を、レウニールはまじまじと見て… 長い間、泥 の中に埋 もれていた、貴重な宝物を見つけた気分になる。
「本当に良い腕だ…」
騎士という立場上、何度も治療師の治療を受けたことはあるが… 彼らと比べても、少しも劣らない、丁寧な治癒魔法だ!
もしかすると、アユダル自身の性格も、魔法に反映されるのかもしれないな?
学園を卒業したばかりの、レウニールが白騎士団の新人騎士だった頃、騎士団専属の治療師に治癒魔法をかけてもらった時… 確かに見た目だけなら、傷は綺麗に修復されていた。
だが…
『治療師殿、腕の筋肉の奥でひどい痛みが何日も続いている… 本当に私の傷は完治しているのですか?』
レウニールはいつまでも続く痛みを、治療師に訴 えた。
『アナリシス公爵、あなたはまだお若く、治癒魔法の治療をお受けになった経験が少ないから、ご存知ないかもしれませんが… 治療後の痛みが続くのは、お身体の鍛錬 が日頃から足りてないからです』
名家出身の傲慢 な治療師は、自分の腕の悪さを誤魔化すのに、若いレウニールの身体の鍛 え方が悪いと侮辱し、問題をすり替えたのだ。
「・・・・・・」
危険を顧 みず友人を助けようと、セルビシオ伯爵の前に飛び出したアユダルなら、そんな不誠実なまねはしないはずだ。
思い返せば、容姿は美しいが客の取り合いで、ギスギスと醜 くいがみあう男娼たちにうんざりしていた私が、一夜の相手にアユダルを選んだのも… ケンカを仲裁し男娼のケガを貴重な治癒魔法を使い、無償で治療していた姿を見て、アユダルに好感を持ったからだった。
患者がアユダルを信頼し身体を委 ねれば、その信頼に答えようと全力で治療にあたる。
アユダルはきっと人々から尊敬される… そんな治療師となるだろう。
隣に座り自分を見あげるアユダルの、小さな唇にキスを落としながら、レウニールはゆっくりとベッドに押し倒す。
「お前を、私のものにしたかった」
ほんの数日、一緒にいただけで… アユダル… お前がどれだけ私を癒したかを、知らないだろう?
家族と婚約者を無くした、痛みと喪失感を… お前といる時だけは、感じずに済んだ。
「レウニール様… それって僕のことを…?」
アユダルは瞳を輝かせて、レウニールを見つめる。
セルビシオ伯爵が騒ぎを起こす前… レウニールは娼館の主人に借金の肩代わりをして、アユダルを身請 けしようと交渉する気でいた。
「だけど、私がお前を独占すれば… 宝の持ち腐れになってしまうとわかったよ… だから私のものにするのは止めることにした」
治療師になれば、アユダルは人々から尊敬される存在として扱われるが… 私が身請けをして愛人にすれば… 一生、日陰 者のままだ。
アユダルを愛しく思うなら… 私の欲望で愛人にしてはいけない。
だからと言って妻にも出来ない。
抱かれたのは私一人だとしても、男娼にまで落されたアユダルを妻にすれば、貴族社会で大きな醜聞となり、私の弱点になる。
そして私の弱点は… 忠誠を誓う王太子殿下の足を引っ張ることにもなるだろう。
どれだけ胸が痛くても、私はアユダルを独占してはいけない。
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