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第37話 別れの後2

   レウニールが会いに来るのを、待とうと決めた最初の頃は… アユダルも胸に希望を秘めていたが…  数日が過ぎ… 数か月が過ぎても… レウニールがアユダルに会いに来ることは無かった。  待っても… 待っても… 来ないレウニールに、待ちくたびれたアユダルは自分から会いに行こうと、アナリシス公爵邸へと向かった。  王都の中でも王宮に近い場所にある、アナリシス公爵邸は広い敷地内の一番奥にあり… アユダルは(やしき)の姿を目にすることさえできなかった。 「僕はアナリシス公爵様に、忘れ物を届けに来たのです! 公爵様に会えばわかりますから!」  アナリシス公爵家の紋章が刻まれ、長い歴史とともに風雨にさらされた門を守る、公爵邸の門番の騎士に、アユダルが訪問理由を伝えると…  「どこの貧乏貴族の息子かは知らないが、お前はオメガだろう?」 「そうですけど、それが何か?」  門番の騎士ににたずねられて、アユダルはおずおずと答えた。 「アナリシス公爵様から、お前のように、恥を恥とも思わず、(あつ)かましく一人で邸を訪れるようなオメガは、絶対に通すなと命令されている! さっさと帰れ!」  以前、セルビシオ伯爵家の令嬢アグハに、オメガの誘惑フェロモンでレウニールが(わな)に掛けられそうになってから、アナリシス公爵邸の門番は厳しく規制するようになったのだ。 「厚かましいとは、なぜですか?! 僕は公爵様に忘れ物を届けに、来ただけだと、言っているではありませんか!」  アユダルは腕にはめた、レウニールが置いて行ったアルファ用の抑制リングを外して、門番の騎士に渡して見せた。   「お前のような恥知らずが、月に何人この門に訪れると思っているのだ?! 婚約者がいない独身のアナリシス公爵様を、自分なら慰められると… 自分の容姿に自信があるオメガたちが、公爵様なら自分を愛人にして下さると勘違いする者たちが、どれだけいると思っている?!」 「そ… そんな… でも、僕は… 僕は…!」  娼館で可愛いと褒められ、何度も… 何度も… レウニール様に抱かれたのに… 確かに、僕が男娼だったからかもしれないけど… でも…  顔を強張らせて、アユダルは門番に自分は他のオメガたちとは違うと、否定したかったが… 何を言っても、恥知らずな言葉に聞こえそうで口に出せなかった。 「さっさと帰れ! 公爵様は毎日ご多忙で、お前のように昼間からこんなところで、媚びを売ろうとする奴の相手などするひまなど無い!!」  レウニールの抑制リングをアユダルの手に返し、門番の騎士はシッシッ… と手を振ってアユダルを追い払う。  「・・・っ」  僕を抱いたレウニール様は、本当にこんな立派なお邸に住む、アナリシス公爵様なの?  アユダルとレウニールの間にある大きな身分の差が、どれだけ会いたくても会えないのだと、アユダルに厳しい現実を教えた。  胸に秘めていた希望が粉々に砕け散り… 男娼に落ちた時でさえ、残っていたアユダルの子供っぽい甘さが消え、本当の意味で大人になった瞬間だった。  世界は引っくり返り… アユダルは治療師への道を(きわ)めることで、レウニールへの思いを断とうした。

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