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第39話 3人目の騎士

 師匠のプロプエスタの指導を受けながら、アユダルは2人の騎士の治療を無事に終え、暗い廊下に立つ3人目の騎士を呼んだ。  「良い腕だ、治療師殿! 助かったよ…」  マントのフードを深く被った3人目の騎士は、せまい治療室には入らずに、暗い廊下で騎士服のポケットから金貨4枚を出すが… アユダルは1枚だけ受け取り、残りの3枚を騎士に返す。 「金貨4枚では多過ぎます、2人分なら金貨1枚で結構です」  あれ…? この声、レウニール様に似ている?! でも、違うよね? だってアナリシス公爵様は、1年ぐらい前に白騎士団の副団長に復帰されたと、新聞に載っていたもの… 下級貴族の黒騎士さんたちと一緒に、こんな場所に来るような身分の人ではないし。  僕の記憶もかなり、薄れてきているからなぁ…? 「そんなに安くて、本当に良いのか?!」  騎士は心配そうにたずねた。 「僕も師匠も、名家出身の治療師たちのように、高位貴族を相手にぼったくりをするようなやり方は、好みませんから… 一日で、たくさんの患者さんを治療して、平民の患者さんが無理なく払える金額を、もらうようにしています」  1度の治療費を安くして、多くの患者を治療するのが、この治療室の経営方針である。 「なるほど… 素晴らしい!」 「それより、あなたの傷は?」  フードを被った騎士にアユダルがたずねると… 「私は重症の2人を、ここに送って来ただけだから、ケガはしていない」 「本当に? あなたから血の匂いがするけど…?」  魔獣の体液の腐臭に似た匂いもしていたが、今までの経験から、アユダルは人間の血の匂いを、嗅ぎ分けられるようになった。 「これは部下たちを運んだ時についたもので、私の血ではない」  フードを被った騎士は否定したが… 「様! 魔獣に負わされたケガは、神官の浄化魔法を受けたとしても早めに治療した方が、後で面倒がなくて良いですよ?!」  フードを被った騎士の背後から、最初にアユダルが治療した騎士が口をはさみ注意した。 「…?!」  ドクンッ…! と胸の中で心臓がはね、思わずアユダルは礼儀など忘れて、目の前の騎士のフードに手をのばし強引に脱がした。  茶色に近い濃い金の髪があらわれ、アユダルは美しい青玉色(サファイア)の瞳と見つめ合う。  はアユダルに見つめられ、気マズそうに目を()せた。  本人の許可を得ずマントの前を開き、アユダルは大きな身体のどこに傷があるかを確認する。  マントの下に着た白い騎士服の下は裸のままで、胸から肩にかけて包帯を巻いていた。 「やはり、ケガをしているのですね、公爵様?! 僕の腕が信用できませんか?」  アユダルは、キッ… とレウニールをにらみつけた。 「いや! それは違う… お前が嫌がるのではないかと…」 「僕は治療をする時、私情を持ち込んだりしません! さっさと治療室へ入って下さい!」  何だよ! 僕の顔を見るのも嫌そうにするなんて! 「アユダル、私はそういう意味で言ったのではなくて…」 「ええ、分かっていますよ、公爵様!」  1年ぶりに再会した愛する人に、無視されそうになり… 怒りと悔しさで涙がにじむが、アユダルは指先でぬぐい平常心を装った。  治療を終え、プロプエスタに鎮痛効果のあるお茶を渡され、治療室から出た2人目の騎士と入れ替わりに、アユダルはレウニールの腕をギュッ… とつかみ治療室へ押し込む。 「プロプエスタ様、公爵様は僕の治療を受けたくないそうなので、お願いします!」 「…何だって?!」  穏やかに微笑んでいたプロプエスタの顔が険しくなり、ジロリとレウニールをにらみつけた。 「待て、違う! アユダル、私はそんなことは言っていない! ああ… クソッ!」  (ののし)るレウニールを治療室へ置き去りにして、アユダルは廊下へ出て娼館の裏口から外へ出る。

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