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第41話 矛盾
娼館のはしにある、使用人用の階段で2階にあがり、アユダルとレウニールは備品倉庫を改築した、簡素なベッド以外は何も無い小さな部屋へと入る。
アユダルは壁に掛けられた燭台 の蝋燭 に火をともし、部屋がボンヤリとオレンジ色の光で明るくなると… ベッドに腰をおろしたレウニールのマントと騎士服を脱がせて、丁寧に血で赤く染まった包帯をとく。
「公爵様は白騎士団の副団長なのでしょう? なぜ騎士団専属の治療師の治療を、受けなかったのですか? それに、さっき治療した2人の黒騎士たちは、あなたの部下でもないし… なぜですか?」
アユダルは最初に思った疑問を、レウニールにぶつけた。
「地方や近隣国に視察へ行く、王族の護衛で白騎士は同行することが良くあるのだが… 最近人間の襲撃よりも魔獣の襲撃に遭 うことが多くなった」
「さっきの黒騎士さんたちも、魔獣が増えたと言っていましたね?」
「ああ、それで我々白騎士も魔獣相手の戦いの経験を積むために、黒騎士たちに同行して合同で魔獣討伐をするようになった… 治療室に連れて来た2人の黒騎士は、私の部下の白騎士が足を引っ張り、ケガを負ってしまったから… 手があいていた私が連れて来た」
「手があいていると言っても、あなたもケガ人でしょう?」
「腹立たしいことに、黒騎士団の専属治療師殿は、私の部下の高位貴族出身の白騎士たちを優先して、治療しようとした」
「それって… もしかして、黒騎士さんたちの足を引っ張った人たちですか?!」
「そうだ!」
「どちらにしても、コッチに連れて来た2人は重症にも関わらず、黒騎士団の専属治療師に治療されるのを拒否した… だから公爵家の馬車を呼んで、彼らの案内でここまで連れて来たんだ」
「それであなたも、彼らにならい治療を受けずに、ここへ来たと?」
「お前が働くこの治療院に来るとは、思わなかったから…」
アユダルがいると知っていたら、自分は来なかった… レウニールはそう言っているのだ。
包帯を解き終わり、肩の傷に当てたアユダルの手がピクッ… と動き強張る。
「・・・っ」
もう、動揺しない! 動揺しない! こんなことで、僕は傷ついたりしない! 今から治療をしなければいけないのだから! 動揺は禁物だよ!
「…違うんだ、アユダル! お前の治療を受けたくなかったのではなくて、私にはお前に合う資格が無いと思ったからだ!」
アユダルの動揺を感じ取ったレウニールは、傷に当てた手を取りギュッ… とにぎり、唇に持って行きキスを落とした。
レウニールの手を振り払ったりはしなかったが… アユダルはつかまれた手を、ギュッ… と固くにぎり拳 を作る。
「資格って… 何のことですか?!」
「それは… お前に愛されていると気づいていたのに… 私は配慮に欠けた別れ方をしたことだ」
「・・・っ?!」
それって、つまり… 僕がレウニール様の愛人になりたがっっていることを知っていて、黙って置き去りにしたという意味なの?!
あの時、僕は… 気持ちを伝えられなかったことが、ずっと心残りで… 今まで未練を引きずって来たというのに? 全部レウニール様は知っていたの…?!!
「本当はずっとお前が恋しかった… ほんの数日、身体を重ねただけなのに、お前のフェロモンやお前の肌の温もり、なめらかさ、甘い声… 眠った時の可愛い寝顔が… 何もかもが愛おしくて、忘れられなかった!」
「だったら、なぜ! 会いに来てくれなかったのですか?!!」
言っていることが矛盾 だらけで、意味が分からない!! 何なんだよ―――っ!!!
何度も指でぬぐい我慢していた涙が、アユダルの瞳からいっきにあふれ出す。
話が思わぬ方向へ飛び、アユダルは激しく動揺して、細かな魔力の調整と集中力が必要な、治癒魔法をかける冷静さをなくしていた。
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