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第42話 矛盾2

 (こぶし)をにぎりしめアユダルは、レウニールをにらみつけながら怒鳴った。 「僕がいる場所に、来たくなかったと言ってみたり… 好きだ、可愛いと言ってみたり… あなたは僕を揶揄(からか)って楽しんでいるのですか?! 男娼だって人間です! 身体はお金を払った客が自由に遊んでも、文句はいわないけれど… 心を(もてあそ)ぶなんて、最低です!!」 「アユダル、私はお前を揶揄ってもいないし、弄んだつもりもない! 本気でお前が愛しくて、欲しかった! だが、愛しいからこそお前と距離をおく必要があったんだ!!」  冷静に見えていたレウニールも、アユダルの言葉に腹を立てて怒鳴り返した。 「だから、何なんですか?! なぜ距離が必要なんですか?!」 「それは…っ!」  再びアユダルに怒鳴り声をあげかけるが、レウニールの言葉はとぎれ… 興奮しギラギラと光らせていた青玉色(サファイア)の瞳を閉じて、深くゆっくりと… スゥ―――ッ… ハァ―――ッ… と広い胸をふくらませて、何度か呼吸を繰り返した。 「アユダル… 私は王太子殿下に忠誠を誓った人間だ」  それまでより音量を押さえ、声を一段低くして、レウニールは語り始めた。 「だから、何ですか?!」 「国王陛下の後継者を(めぐ)り、王太子アニマシオン殿下と第二王子殿下の2人が、それぞれの派閥(はばつ)とともに(いま)だ争っているのは知っているか?」 「治療に来た、黒騎士さんに聞いたことがあります」 「私が騎士団に復帰した頃から、その争いが増々激化してゆき、第二王子を立てる派閥のエキボカル公爵らが、私の弱みをにぎろうと周辺を嗅ぎまわっているんだ」  極秘事項のため、アユダルの前でレウニールは口に出さなかったが、大賢者の未来視(さきみ)の魔法で明らかになった、魔王復活の影響だった。  有能な王太子アニマシオンが、魔王討伐の総責任者となれば… それこそ第二王子との間に、実績の面で大きく差が出てくるのは、目に見えていて、第二王子派は(あせ)っているのだ。  「…僕が、あなたの弱みになると、思っているのですか?」 「もしも、お前が誘拐でもされたら… 私は正気ではいられないだろう!」 「・・・っ?!」  まさか、そんな理由で… レウニール様が僕を無視しようとしていたなんて…?! 「娼館で友達と一緒に、お前はセルビシオ伯爵の横暴をその身で体験しただろう? 彼もエキボカル公爵と同じ第二王子派だ」 「フルタを半殺しにした、人間の皮を被った(けだもの)が… レウニール様の敵?!」 「アニマシオン殿下は能力も実績も、第二王子殿下より何倍も後継者にふさわしい人物だ! だから、側近の私たちを(けず)り取ろうと、必死になって彼らは弱みを探しているんだ」 「だったら… そう言って下されば、僕だって… 納得したのに…!」 「私の事情など、何も知らない方が、お前のためだと思った… だが、結局私は衝動的にお前を追いかけて、この部屋に連れ込んでしまったのだから… 私も詰めが甘いなぁ…」  苦笑を浮かべレウニールは、アユダルを引き寄せ自分の膝の上にのせて抱きしめた。 「なぜ、僕の元に抑制リングを置いて行ったのですか?! あなたは必ず会いに来る… 僕はそういう意味だと、ずっと待っていたのに!」 「ああ… そうか、そんな風に思ってしまったのか… あれはお前への未練だアユダル! お前を“(つがい)”にしたいと願いながら抱いた私を、お前に忘れて欲しくなくて置いて行った…」 「あなたは、矛盾(むじゅん)してます!」 「そうだな… 私もそう思う」  涙で濡れた自分の頬を、てのひらでぬぐい… アユダルはレウニールの唇にキスをする。  2人のキスは、レウニールがケガの痛みで苦痛の(うな)り声をあげるまで、熱烈に続いた。 ※次で最終話です。

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