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プロローグ(8)

 オレはもう一度傷つきすぎている右足を跳ねあげ、怒りをあらわにしている神楽の腹を蹴った。  神楽は同じ攻撃を二度も受けるほど愚かじゃない。  オレから身体を離し、繰り出した攻撃を避けた。その瞬間に生まれる空間をオレは見逃さなかった。  オレを抑える神楽の手がゆるんだ瞬間を突いて力いっぱい分厚い胸板を押し上げ、するりと身を引いた。  手が自由になったのを確認したら、地面に降り積もっている雪を握りしめ、神楽の顔面にぶちかました。  それによって充血させていた金の瞳は冷たい雪を真正面から受けることになる。 「きっさまあああああ!!」  地面に膝をつく神楽は、両目を手で覆い、怒りを露わにした。  地獄からのような怒鳴り声に怖くなる。  でもここで逃げなければ、もっとひどい目に遭うのはわかっていた。  今のうちに逃げないと!!  オレはやってくるだろう激痛を堪えるため、唇を引き結んで雪の上に立つ。  想像以上だった痛みは堪えきれず引き結んだ口から漏れてしまった。  ぱっくりと開いた傷口から勢いよく真っ赤な血が流れはじめる。  それでも、逃げなければいけない。  当然、神楽によって露わになった肌を隠す暇さえもなく、はだけた衣を直さないまま、オレは鋭い痛みを無視して、決して走るという行為ではない足の速さで迷路のように木の枝が張り巡らされている森の中へと歩きはじめた。  歩けば歩くほど、オレの両足から流れ出る血はまっ白な雪の中に跡を残した。

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