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第1話・大きな傷を抱えて。(3)
神楽の手先のコイツには捕まるわけにはいかないんだ。
オレは四つん這いになって目の前のそいつを睨み、毛を逆立てて威嚇する。
「フーッ!!」
今のオレは人型じゃない。狐の姿に戻っている。
きっと、ダメージを受けすぎたんだ。
おかげで妖力もない。今はただの無力な1匹の狐だ。
だからといってコイツに負けるわけにはいかないんだ。父さんと母さんを殺した、神楽の仲間になんかに!!
オレは差し出された手を引っ掻いた。
「……っつ!!」
男の腕から赤い血が流れ、削ってやった男の皮膚がオレの爪の中に入った。苦痛にゆがめた表情を浮かべたそいつはオレを見据える。
神楽の仲間なら、これでオレは確実に殺される。
いくら優しい顔をしたって、どうせ誰だって自分を傷つけられれば怒る。それで、オレも父さんと母さんのように死んでいくんだ。
だけど命乞いなんてしない。
オレは小さくっても妖狐族の王の息子だ。その名に恥じないよう最後を迎えてやる!
今は妖力ないけど、それでも戦わなくっちゃいけない時ぐらいわかってる。
こんな無様な最後だけど、それでも父さんと母さんはよくやったって、天国へ逝った時に褒めてくれるよね。
父さん、母さん……。
「フーーッ!!」
オレは口から牙を出して精一杯の抵抗を見せた。
「そんなに怯えないで。俺は何もしないから……」
敵意を見せるオレ。
なのに……苦痛に顔を歪めたそいつは、眉をハの字にさせて悲しそうにオレを見てくる。
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