12 / 41

第1話・大きな傷を抱えて。(3)

 神楽の手先のコイツには捕まるわけにはいかないんだ。  オレは四つん這いになって目の前のそいつを睨み、毛を逆立てて威嚇する。 「フーッ!!」  今のオレは人型じゃない。狐の姿に戻っている。  きっと、ダメージを受けすぎたんだ。  おかげで妖力もない。今はただの無力な1匹の狐だ。  だからといってコイツに負けるわけにはいかないんだ。父さんと母さんを殺した、神楽の仲間になんかに!!  オレは差し出された手を引っ掻いた。 「……っつ!!」  男の腕から赤い血が流れ、削ってやった男の皮膚がオレの爪の中に入った。苦痛にゆがめた表情を浮かべたそいつはオレを見据える。  神楽の仲間なら、これでオレは確実に殺される。  いくら優しい顔をしたって、どうせ誰だって自分を傷つけられれば怒る。それで、オレも父さんと母さんのように死んでいくんだ。  だけど命乞いなんてしない。  オレは小さくっても妖狐族の王の息子だ。その名に恥じないよう最後を迎えてやる!  今は妖力ないけど、それでも戦わなくっちゃいけない時ぐらいわかってる。  こんな無様な最後だけど、それでも父さんと母さんはよくやったって、天国へ逝った時に褒めてくれるよね。  父さん、母さん……。 「フーーッ!!」  オレは口から牙を出して精一杯の抵抗を見せた。 「そんなに怯えないで。俺は何もしないから……」  敵意を見せるオレ。  なのに……苦痛に顔を歪めたそいつは、眉をハの字にさせて悲しそうにオレを見てくる。

ともだちにシェアしよう!