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第1話・大きな傷を抱えて。(4)
なんで?
どうして?
お前は神楽の手先だろ?
今は姿を見せないけど、きっとすぐに神楽が来るんだろう?
無害なフリしてオレを安心させて神楽に突き渡すんだ。
オレはもう一度唸り声を上げると目の前のソイツに飛びかかった。
ガブッ……。
男の腕に噛みつき、爪を立てた両手を皮膚に食い込ませる。ソイツが苦痛の声を出した。
あまりに苦しそうな声だったから、一瞬攻撃する力をゆるめてしまいそうになる。
だけど、やっぱりそんな馬鹿なマネはできない。そんなことをしたら最後、オレは抗う力を失ってしまうから。
ぽたり。
ぽたり。
オレが突き立てた牙と爪によって傷がつくられ、ソイツの腕から真っ赤な血が流れはじめた。
いくら小動物だからとはいえ、ここまでの傷になると痛みは尋常じゃないだろう。
ちらりと視線を流せば、空いているソイツの手がオレに向かってくる。
殴られる!!
慌ててソイツの腕から身体を離し、地面に降りる。
――同時に激痛が後ろ足を襲った。
結果的に地面に叩きつけられてしまった。
オレの身体全部が激痛を訴える。
動けない。
父さん。
母さん。
何ひとつできない自分に虚しさと嫌気がさす。
止まった涙が、また溢れてくる。
そうしていると、オレに力いっぱい手傷を負わされたソイツは目の前にやって来た。
殺される!!
覚悟を決めて目を閉じた。
だけど……。
あれ? 痛みはやって来ない。それどころか、オレの身体……。ふんわりと浮いたんだ。
「大丈夫? 痛かったね。怖がらせてしまって、ごめんね」
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