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第1話・大きな傷を抱えて。(5)
――っつ!?
その言葉に目を開ければ、悲しそうなソイツの顔があったんだ……。
そうやってオレの頭をまた最初と同じように撫ではじめる。
なんなんだよ、調子狂う。
オレはお前に噛みついたんだぞ? しかも、痛いのはオレじゃなくてお前じゃん。なのに、コイツはオレを心配して撫でてくるし……。お前は神楽の仲間じゃないのか?
オレはここへきてはじめて目の前のソイツにクンクンと鼻を鳴らした。匂いを嗅いだら……オレたち妖狐族とは違う肌の匂いがあった。
どこかクセのある、歯の奥がギュってなる匂いと――。
あたたかな……母さんみたいな匂いだ。
嗅ぎ慣れない匂い。
もしかしてコイツ、人間なのか?
神楽の手先じゃない?
だけど、コイツを簡単に信用するわけにはいかない。だってオレの父さんはいつも言っていたんだ。
『人間は無力な分、いろんな物をつくって獲物を捕るんだ』って――。
『頭がかしこいから近づく時は用心しなさい』って――。
だけど、頭を撫でられて悪い気はしない。
……仕方ないな。
もう少しだけ撫でさせてやるよ。
オレはうっすらと目を閉じて、頭を撫でられる感触を味わっていた。
そんな中、ふと思ったのはコイツの名前だったりする。
――いや、コイツとかソイツとか言うのって紛らわしいからな。
そんなことを考えていると、頭上からオレの思ったことがわかったようにソイツは口をひらいた。
「俺の名前は鏡 幸 っていうんだ。これからよろしくね」
へぇ~、幸っていうんだ。
ま、どうでもいいけどさ。
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