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第3話・ひとりといっぴきの奇妙な関係。(1)

「動かないで、ほら……」  (ゆき)はそう言うけど……。痛いもんは痛い!! 動くな、なんて無理!!  オレはまだ治ることのない傷口に向かってやって来る水気を含んだ布と格闘中だ。  あれから分かったのは、この白い水気の布は『消毒剤』というもので、『ばい菌』を傷から侵入させるのを防ぐものらしいこと。  それと、幸は動物のお医者さんだっていうこと。道理で傷の手当てが手慣れてると思った。  何度攻撃をしてもやり返さない幸にはなるほどと、うなずいてしまう。そんなこともあってか、オレは幸に対する警戒心を解いた。  とはいえ、ここへ来て三週間経ったのにオレの傷は思いのほか深く、妖力も回復する兆しがないので相変わらず狐のままだ。おかげでオレを追っているだろう神楽(かぐら)には、オレがどこにいるのかを悟られることはない。  え? ここがどこかって?  この動物病院の二階が幸の家で、オレはそこで厄介になってる。  今日もベッドの上で『消毒剤』と格闘する。  えっと、なんでもこのほわほわした白い地面のことを人間は『ベッド』と言うらしい。  いつもここに来ると、幸は『ベッドの上に居てね』と言うから、きっとココはそういう名前なんだ。 「拒絶する気持ちもわからないでもないけどね古都(こと)、早く終わらせないとお前の好きなサケはお預けだね」  ぴっくぅぅ。  サケだとぉぉぉおおお?  痛みを伴う慣れない行為にびくつくオレは、幸の『サケ』という言葉に耳を立ててしまう。  そんなオレの雰囲気が変わったことを知った幸はにっこりとほほ笑んだ。

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