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第4話・『いっぴき』と『いっぴき』(2)
「きゃあああ!! だめよ、そこは!!」
「ニャアアア!!」
後ろ足をかばって何段も連なる階段をゆっくり下りていくと、猫の威嚇する声と慌ただしい加奈子たちの声がいっそう大きく聞こえる。
診察室からだ。
一階に下りたオレは、目の前に佇んでいる茶色いドアをガリガリと爪を立てると、ほどなくしてドアは繰り返されるオレの攻撃に負けて、ギィ……っと音を立て開いた。
ドアごときがオレに勝てると思うなよっ!
ドアに勝ったオレは、出来た隙間から顔を突っ込んで部屋の中に入る。
そして、オレの目の前にあった光景は、それはそれは恐ろしいものだった。
「ギシャアアア!!」
今のオレよりも小さい身体をした三毛猫が……室内を駆け回っていた。
「リンや……大人しくしておくれ」
白髪の老人女性が目の前で暴れまくっている猫を見て、オロオロしている。
白衣を着た幸は毛を逆立てている猫と対峙しているし、「お願い、動かないで傷がひどくなる」と、初めてオレを手当てした時のように声をかけていた。
受付係の加奈子は、固唾をのんでその様子を見守っている。
猫の名前は『リン』と言うらしい。
かわいい名前なのに暴れまくる猫には、なるほど腹の部分に痛々しい傷が見え隠れしていた。
人間の乗り物の『自転車』っていうやつにでも当てられたのだろうか?
すり傷がある場所に打ち身のように青くなっている。
致命傷には至らないとはいえ、すげぇ痛そうだ。
幸が手を伸ばすも猫はするりと抜け出し、ベッドから戸棚へとジャンプした。
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