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第5話・恋ってなに?(5)
後ろを振り返ると、椅子の背にもたれる幸の姿と、オレを追いかけてくる加奈子の姿が見えた。
ムカムカが止まらない。
早く去りたいと思っているオレは、数段にもわたる階段をタンタンッと勢いよく駆け上る。
あと三段ほど階段を上ればふかふかのベッドがオレを待っている。
――その時だった。
あまりにも急いでいたから階段を踏み外してしまった。
落ちる!!
そう思っていたけど、後ろから続いてくる加奈子の手によって受け止められた。柔らかい加奈子の腕に包まれたオレは、力なく身体を埋める。
幸とは違う優しい香りがする……。
加奈子に包まれて気持ちは少しだけ落ち着きを取り戻す。
だけど、やっぱり胸がズキズキする。
こんな感情なんて知らなくて、戸惑ってしまう。
ほどなくして、オレの身体は柔らかい布の上にゆっくり落とされた。
? なんだろう。
大粒の水が頭に当たった。
雨か?
いやいや、ここはでっかい屋根のついた家の中だ。雨なんて落ちてこない。それに、窓の外は太陽の光がさんさんと降り注いでいる。
なんだろうと思って見上げれば、加奈子が大きな目に涙を浮かべて、泣いていた。
「やっぱり……わたしじゃ、ダメなのかな。先生は、こんな子供なんて相手にしないのかな……」
そう言うと、またオレの頭にピチャリと大粒の雫が落ちてくる。
オレはどうしたらいいのかわからず、彼女の傍らでうつむいた。
いくら時間が経っても加奈子の涙は止まらない。
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