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第2章 チンコケースの大いなる野望

    第2章 チンコケースの大いなる野望  はてさてチンコケースとはなんぞや? と疑問を抱いている方が少なからずいらっしゃるはず。では、遅蒔きながら説明のほうを。  端的に言えば、世良をはじめ精鋭部隊に属する配達員の必需品だ。なぜなら後孔に装着する代物(しろもの)だからだ。使い方はいたって簡単。超薄を謳うコンドーム以上に薄いシリコン製で、筒状のそれを菊座に挿入すれば、体液に反応して粘膜にぴたりと張りつく。  つまり、いわばマトリョーシカだ。人工の内壁が入れ子的に、人体本来の内壁を覆う構造なのだ。  また、芥子粒大のカプセルがシリコンの全面に埋め込まれていて、客の勃起臭を感知ししだいカプセルが破裂し、潤滑剤がケース内に行き渡る。衛生的で且つ、さくさくとを呑み込むことが可能になったのは技術の勝利といえよう。  なお使用ずみのチンコケースの処理は微生物にお任せ、と環境面への配慮もばっちり。余談だが、この画期的な品を発明したのはキクアナ運輸の、現社長の弟にあたる人物だ。特許を取得したチンコケースは同社に莫大な利益をもたらした──。    さて、キクアナ運輸の配送センターの朝は、ラジオ体操ならぬ括約筋のストレッチからはじまる──うっかりしていた。もう一点、重要なことを書き洩らすところだった。  安直なアダルトビデオじゃあるまいし、すべての配達先で「あっふ~ん」な場面が繰り広げられるわけではないのだ。  それから派遣型のデリヘルとは違い〝チンコでハンコ〟に金銭の授受は発生しない。あくまでサービスの一環だ。  では精鋭部隊ひとりにつき一日五名さま限定の、わっしょい〝チンコでハンコ〟の権利を獲得する仕組みを、かいつまんで説明しましょう。  日本人は総じて季節限定、地域限定の類いに弱い。同様に稀少性が高い〝チンコでハンコ〟は、流通枚数がひと桁の〇〇〇ンカードに喩えられるほどマニア心をくすぐる。  誰が幸運を射止めるか、といえばAIがお届け先一覧表の中から無作為に数軒を選ぶのだ(ただし荷受人は男性に限るとの条件のもとで、だ)。  ハッカーがAIのプログラムを遠隔操作して〝チンコでハンコ〟をせしめた。そんな黒い噂がまことしやかに囁かれるあたり、同サービスの人気ぶりを物語っている。  ともあれ優雅に泳ぐ白鳥が水中で脚を動かし続けているように、地道な努力の積み重ねがものを言う。日日再々ずっぽしへの耐久力を養うからには、精鋭部隊入りをめざす一般の配達員も含めて玉門の鍛錬は欠かせない。 「はい閉じて、開いて、すぼめて(ゆる)めてえ。おいっちに、三、四。チンチンカモカモ!」  センター長が台の上に立って手拍子を取り、のの字を書くように腰を回す。  世良も(なか)が波打つよう意識しながら秘処を蠢かす。イチモツを食いちぎるくらい狭まったかと思えばギャザーが伸び広がって、今日も今日とて絶好調だ。

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