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第16話
などと、焦れったさがつのる出来事があってから数日後の夜。倉庫街を行き交うトラックのテールライトが彗星のように尾を引くなか、配送センターに引き上げて更衣室に入る。すると帰り支度をすませた〝チンコでハンコ〟の精鋭部隊のメンバーが勢ぞろいして、くつろいでいた。
精鋭部隊はキクアナ運輸の各営業所に若干名ずつ配属されていて、この配送センターの場合は世良を含めて総勢五人が猥 りがわしくも尊 い任に当たる。
お疲れ、おつー、と言い交わし、世良も私服に着替えるとベンチに腰かけた。
すると筋肉男子の市村が、パンパカパーンとトランペットを吹く真似をした。
「みんな、羨ましがってくれ。俺な、伝説のラッキーチンコに遭遇しちまった」
ラッキーチンコとは、文字通り福の神の化身のごとき一本のことである。
件 のイチモツをずどん! といったあとは信号という信号を青で通過できる。十五分待ちもザラという開かずの踏切でさえ、差しかかったとたんモーセの前にふたつに分かれた紅海のごとく、ちょうど遮断桿があがる。配達先はすべて在宅していて、しかもチョーにこやかに接してくれる。
勃起する仕組みが常人とは異なり、血液の代わりに幸運物質が海綿体を膨らませるからだ、という説に信憑性があるように感じられるくらい、奇蹟が奇蹟を呼ぶのだ。
「で、幸運のお裾分けな」
市村はウインクするように発達した胸筋を蠢かすと、ブリックパックのプロテイン飲料を全員に配った。キュート男子の小森が、仇敵に一撃を加えるような荒っぽさでストローを飲み口に突き刺した。
「市村ばっか、ズルい。俺なんか下っ手くそなくせして無駄にデカマラなやつに当たったせいで、まあだヒリヒリしてるのにぃ! 痔になったら労災認定、確実みたいな?」
「労働監督庁がケチをつけるかもな。いぼ痔はOKでも切れ痔は適用外とか」
正統派イケメンの宮内が鼻で嗤った。民間のロケットが火星に着陸する時代が到来しても、未だに一部の男どもの間で脈々と受け継がれているものがある。屈折した心理の現れの、あれだ。
──好きな子ほどイジメたがる。
「よしよし。あしたはきっと特上のハンコで口直しができるさ。なっ、これを塗って今夜は早く寝なさい」
属性・兄貴分の木田が、軟膏のチューブで小森の尻たぶをつついた。宮内が睦まじげなやり取りを横目で睨みながらブリックパックを握りつぶしたのは、さておいて。
「そうそう、快調に〝チンコでハンコ〟をこなすためには、商売道具のメンテナンスと日ごろの鍛錬が大切なんだぞお」
市村がスクワットを応用したチンコケースの開閉体操をやりはじめた。膝を曲げ伸ばしするたび、くいくいっと大げさに腰を動かすあたり、手本を示すというよりウケを狙っている。
元気印、可愛い、クール、男前、お笑い担当、と個性豊かでアイドルグループを結成しても十分通用すると評判の五人だ。
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