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第22話
「あー、もう、ぐじぐじとウザいぞ、おれ」
全集中、と笑顔をこしらえて二〇三号室に急ぐ。おつぎは三〇一号室、つづいて三〇五号室にて元気一杯、
「毎度、キクアナ運輸です!」
そうこうしているうちに台車に積んできた荷物は、あとひとつを残すのみ。
例の共布をかぶせなおしてから四〇六号室のチャイムを鳴らした。つい今しがた〝若草〟を補給したにもかかわらず、燃費が悪くて早くもエンプティーに、というように彼が姿を現すのが待ちきれない。
苛々と台車を押して引き寄せて、ところが扉が開くと同時に凍りついた。
置いてきぼりを食らった腹いせに世良を驚かしてやろう。若草がそう思って、そんなふうに装いを凝らしてみたのだとしたら、目論見は当たった。
「お、お荷もちゅを、お持ちしみゃした……」
舌がもつれるのも当然である。応対に出てきた若草は、きりりと鉢巻を締めて勇ましい。だが角 が生えたならまだしも、鉢巻で固定する形で左右のこめかみからそそり立っているのは、バイブレータだ。もちろんアダルトグッズの、あれ。
仮装のひと言で片づけるには、視覚に訴えかけてくる力は高層ビルの爆破解体のもようを上回って、強烈すぎる。
「確か……古い邦画で観ました、そんな恰好」
刺激するまい、藪蛇になるまい。世良は引きつりがちな顔を懸命にほころばせ、努めて朗らかに言葉を継いだ。
「よれよれの袴がトレードマークの、もっさいけれど名探偵が、平家の落人系の怨霊の祟りだの隠し財産だの、おどろおどろしさ満載の事件の謎を解く、的なストーリーの」
件 の映画は、昭和十年代に山陽地方で起きた惨劇を下敷きにした場面で幕を開ける。津山三十人殺し──俗にそう呼ばれる凶行におよんだ青年が当夜、村人を惨殺して回るさい鉢巻に結わえつけていたものは、ありふれた小型の懐中電灯だったが。
「おれが鉢巻に挿 して持ち歩くとしたら、運転しながらでも食えるバナナとかスニッカーズっすかね。やっぱ作家の人はセンスが図抜けてる……」
乾いた笑い声が開放廊下にこだまし、そして尻すぼみに消えた。雨染みができた天井に蜘蛛が巣を張り、火災警報器のカバーは埃で黒ずんいる。
だが、喩えここが絢爛豪華な大広間でも若草は我が道を行くだろう。今しもバイブレータを両の手に持ち替えると、ヲタ芸のように振り回すありさまなのだから。
「机にへばりついて原稿に取り組む前に集中力を高め、併せてエロ神さまを召喚する儀式を行っているのです。こちらの性具を供物に捧げますゆえ、出 でよ、キーボードに宿りたまえええー!」
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