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第23話

 バイブレータが二重、三重にぶれて見えるまでに妖しい舞踏は激しさを増す。もはや世良は赤べこのごとく、こくこくと頷くのみ。  眩暈に襲われるなかで空想の世界へと羽ばたく。若草が恋愛小説家だとしたら、こんなロマンティックな科白を囁いてくれるかもしれない。世良くん、きみの桃尻の前では四十カラットもある、あの曰くつきのホープダイヤモンドでさえ色あせる──なあんちゃって。  などと、ぽわんとなった瞬間を狙ってバイブレータが、ういんういんとスラックスを這う。キャッと飛びのきしな台車にしっかりストッパーをかけたのは、さすがである。 「なっ、何をあそばすのでありますか!」 「蒸れるのを防ぐ工夫に感銘を受けて。肉棒で暖簾をかき分ける方式で花を散らすのに、うってつけと確証を得るのに、ちょっとね」  ご名答、賞品はを玉門にご招待。そう応じ、ここを先途と共布を剥ぎ取って迎え撃つ……はずがタイミングを逸した。若草は、ふだんの若草に戻って敷居を跨ぐ。 「待たせてごめん、配達ご苦労さま。今、判子を取ってくるよ」  世良は荷物を運び入れると見せかけて後につづいた。今日こそ〝チンコでハンコ〟にこぎ着ける望みが完全に絶たれたわけじゃない。針仕事に費やした時間を無駄にしないためにも、秘技・チラリズムを炸裂させるのだ。  ──エロ神さまに降臨願う、とっておきの方法を伝授するっす。まず、おれの某所を捺印の欄に見立てて……。  こんな誘い文句を紡ぎながら、スラックスの臀部を扉にこすりつけ、シースルーを露出するのに先んじて、 「はい、じゃあ配達ご苦労さま」  電光石火の早業で受領証に判子をぽん、返す手で段ボール箱がもぎ取られる。ぐうの音も出ないレベルでいなしてくださるさまは、すでに名人芸の域に達している。 「ども、毎度でした……」  しおしおと配送車に戻って頭を抱えた。まごまごしているうちに、差し入れの品を渡すのをすっかり忘れていたのだ。迷い、ピエロに成り下がった気分で四〇六号室に取って返し、困惑顔を覗かせた若草に包みを差し出す。 「水ようかんが美味そうだったんで。気持ちなんで、よければ食ってください」 「ありがとう、ご馳走になるよ。そうだ、今夜は何か用事がある?」 「家に帰って寝るだけです」 「それは好都合。だったら何時でもかまわないから仕事が終わったら寄って。せっかくだから一緒に食べようよ、いいね?」    わーい、家デートのお誘いだ。現金なことに今度は配送車までスキップを踏みつづける。一緒に食べようイコール、デートと解釈すること自体こじつけがすぎるのは、さておいて。  喜ぶのは早かった。世良にもしも予知能力が(そな)わっていれば、約束をすっぽかして、まっすぐ帰宅していたに違いない。

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