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第4章 チンコケースの「はらひれほ」。

    第4章 チンコケースの「はらひれほ」。  さる昔話のなかで欲深なおばあさんが選んだ大きな葛籠(つづら)からは、化け物がぞろぞろと出てきた。  かたやガバメントケースからは、セーラー服が出てきた。純白のスカーフおよび、衿と袖口に三本ずつ白線があしらわれた上衣ならびに紺色のプリーツスカートから成る一式が。  世良はソファからなかば転げ落ちた恰好でフリーズした。一七二センチ✕六十一キロと数字的には並みの体格だが、日々の労働の賜物だ。腹部はしっかりシックスパックだし、力こぶの大きさだってちょっとしたもの。  そんな、れっきとした成人男子をつかまえて、(のたま)うに事欠いてセーラー服を着るよう迫る。気づかないうちに若草の逆鱗に触れることをしでかしていたのだとしても、どういう種類の罰ゲームなのだろう。 「性別はともかく。構想を練っている段階の、新作の主人公のイメージが世良くんと重なってね。特に、かねがね逸品だと睨んでいた脚線美」    つつつ、と眼鏡ので太腿の線をなぞられるにつれて、波紋が広がるように鳥肌が立つ。ただ気色が悪いせいかといえば、あながちそうとは言い切れなくて、かえって座面に縫い留められてしまう。 「衣装をまとったうえで即興芝居につき合ってもらえると、主人公に血が通って物語を牽引してくれそうなんだ。協力してくれるよね、(いな)は言いっこなしだよ」 「否です、断じてノーです、無理です、勘弁してください!」 「冬に、タイヤがパンクして立ち往生しているときにお節介を焼いたら下僕に志願してくれたじゃないか。愛と笑顔の真心便を標榜するキクアナ運輸の社員に限って、まさか約束を(たが)えたりしないだろう?」 「カ、カビが生えた話を今ごろになって持ち出すなんて、たっぷり利息がつくのを待って取り立てにやってくる悪徳高利貸し以上に卑怯っすよ!」 「おやおや、ご挨拶だね。せめて軍師と言っておくれよ」  ゆったりと足を組み替えてアイスコーヒーを飲むさまは、まさしく諸葛亮孔明の生まれ変わり……を髣髴(ほうふつ)とさせないこともない。  西洋のことわざによれば〝好奇心、猫を殺す〟。校則に従って、という感じの真っ白なハイソックスが(ふところ)にねじ込まれたのに突き返すどころか、サイズが合うか確認する始末で、ポンコツぶりを露呈する。 「新作とやらの内容を、参考までに教えてもらえますか……やっぱ、やめときます!」 「遠慮しなくていいのに。かいつまむとね、学園のマドンナが化学室を舞台に、さまざまな実験道具を用いて調教されて肉便器に堕ちていく過程をじっくり、ねっとりと描写して読者の皆さま方にカタルシスを味わっていただく──では、ありがちでつまらないよね。だから、ひとひねりして……」  ビーカー、フラスコ、試験管、プレパラート──などなど。あれらが作中でどんな働きをするのか、ちょっぴり体験してみたい気がしないでもないような……。

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