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第28話

 かたや大願成就へ向けての先行投資、こなた新作のプロットを練るため。  目的は違えども協力してお芝居をつづけ、ただし諸刃の(つるぎ)だ。ジタバタするのを押さえつけるふり、のしかかってくるのを突きのけるふりを繰り返すにしたがって、虚構の世界と現実の境目がアヤフヤになっていくような危うさがあった。 「先生、許して……くすん、くすん」 「ふっふっ。聞き分けのない生徒はマン・ツー・マンで厳しく指導する必要があるのだよ」  ハイソックスの片方はずり落ち、ゴムの痕が生足に鮮烈、且つ悩ましい。もう片方は、ふくらはぎをきちんと包んでいるから、なおのこと。  〇〇ごっこが、その枠からはみ出す恐れがあるときに、火薬庫のそばでマッチを擦るような光景だ。現にスカーフの結び目がほどけて、むしり取ってほしげに閃くと、生唾を呑み込む音がくぐもる。  雨雲が厚みを増し、水たまりが油膜でぎらつく。羽虫が街灯に吸い寄せられては、ぽたりぽたりと焼かれて落ちる。  そしてここ、レジデンス・デイジーホールの四〇六号室を舞台に繰り広げられる、題して〝学園の白百合落花無残の巻〟は、上衣の脇ファスナーを下ろすに至ったのだが……。  あちらこちらに本の山がそびえ立つさまは、ずらりと並んだジェンカを思わせた。ソファの上でどっすんばったんやっているうちに、振動でいくつかの山が崩れ落ちた。埃が舞い、若草はクシャミをする合間に曰く。 「イマイチ物足りない気がするのも当然だね、画竜点睛を欠いていた」  世良は半身を起こすと、衿をばたつかせた。もちろん素肌をちらつかせ気味に。胸元に風を送ると見せかけて、剝がれ落ちた〝淫行教師〟の仮面をかぶるよう、そそのかしたのだ。  だが、むしゃぶりついてこられた代わりに紙袋を押しつけられた。反射的に口を開いてみると、中にはとんでもない代物(しろもの)が……。 「野暮ったさを基準に買いそろえておいたやつを、つけてもらうのを忘れていたよ。白、ベージュ、小花模様、世良くんの好みは?」  泉に落とした斧はどぉれだ、と女神に問われた(きこり)は正直に鉄のそれと答えて褒美をもらった。  対する世良は、悪魔の三択を突きつけられる。害虫の死骸をティッシュにくるんで捨てるように紙袋を座面の端まで遠ざけておいて、両手で胸をかばった。 「ブラジャーは無理です、おっぱいがないのにつけるのは無意味っしょ。だいたい男子のプライドが、ずたぼろじゃないっすか」 「そうか、残念だな。セーラー服を素敵に着こなしてくれる、きみならブラも似合うだろうに……」  愁いを帯びた顔で嘆かれると、良心が疼く。おさおさ怠りなくチンコケースを装着してきた後孔は、幾万倍も甘やかに疼いた。ギブ・アンド・テイクを目論んで無茶ぶりに応じたわけで、尻すぼみに終わっては水の泡だ。

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