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第5章 切なさぐるぐるチンコケース

    第5章 切なさぐるぐるチンコケース  水墨画に朱を垂らしたように、曇天のもとで薔薇のアーチが鮮やかだ。くぐり、メルヘンチックな一軒家のインターフォンを押す。 「毎度どうも、キクアナ運輸です!」  世良がモニターに向かって会釈すると、 「きょ、きょ、今日は、の出番は、出番は、出番はー!」  スピーカーを破壊しかねないほどの大音声(だいおんじょう)が応じた。〝チンコでハンコ〟の権利を獲得できるか否かはAIによる抽選の結果次第。ただでさえ同サービスを提供するのは精鋭部隊のメンバーひとりあたり一日数名さま限定、とプラチナチケット並みに倍率が高いのだ。 「ご準備のほど、よろしくです!」  金モールで縁取られた受領証を掲げてみせたとたん、雄叫びが近所中に響き渡ったのも道理。ただ、紅白の垂れ幕が二階のベランダからするすると下がるわ、玄関先に日本酒の一斗樽が出現して鏡割りといくわ、過剰なまでの祝賀ムードには。 「くうう、オンラインショッピングに大金をつぎ込むこと苦節、百七回目にして、ようやく、ようやく肉棒に春が訪れた……!」  (あるじ)は感涙にむせびながら世良を屋内に招じ入れた。もしや極太のフランクフルトを内側に貼り付けていませんか、と疑っちゃうくらいジーンズの前が盛りあがっているさまから、すさまじい意気込みが伝わってきた。  だが後孔に挿入ずみのチンコケースは、あらゆる大きさのイチモツに対応しうる優れ物。なので世良は笑みを絶やさず、お届け物をひとまずキ〇〇ち〇んの玄関マットの上に置いた。  ハアハアとふいごを踏むような鼻息が玄関ホールにこだまするなか、制服のスラックスを膝まで下ろし、Tバックの後ろをずらす。双丘を割り広げると壁に手をついて、にこやかに促した。 「レッツ〝チンコでハンコ〟!」 「ふんがあ」あるいは「ごっつぁんです」。興奮するあまり言葉にならない奇声をあげて、いきり立ったイチモツをあてがってくる。先端が玉門にめり込み、ずん! と衝撃がきた。 「ふへぇえ……脳が蕩ける、ちんぽも……」 「んん、ん、あっ、はぁん……っ!」  世良はマニュアルに従って入口をゆるめ、その反面、腹の中で毒づいた。ヘボが、力任せに突っ込むんじゃねえ──と。  ところで〝チンコでハンコ〟の心強い味方、チンコケースの内部の構造は、といえば。  通称プチプチは、丸い突起のひとつひとつに空気が詰まっている。あれの応用だ。挿入時の痛みを取り去る成分が配合された潤滑剤入りのマイクロカプセルが、この場合、丸い突起物に該当すると思ってほしい。玉門に男印の圧がかかるとカプセルが破裂して、筒全体に潤滑剤がしみ渡る仕組みだ。

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