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第34話
カプセルは今日もいい仕事をして、菊座のぐるりも内 も程よく潤ったからには、なめらかあに押印完了といくはず。
ところが、いつになく内壁が狭まってイチモツを押し返しにかかる。焦れったげに腰を抱え込んできて、ガムシャラに突きあげてこようとするのに先んじて、すぽんと抜き去った。
「お荷物一個につき、ひと突きの決まりなので悪しからず。ハンコをどうもでした」
「ひと突きしきってねえぞ、ケチるな!」
段ボール箱とぐいぐい押しつけて、ギンギンにおっ勃ったやつをかわす。
「またのご利用、お待ちしてまあす」
「おい、こら待てハメ逃げか。子種まみれにさせんかい、しばくぞ!」
と、鏡割りに使った木槌を振りあげるのに、受領証を手裏剣のごとく投げ返す。配送車に駆け戻り、ひとり二役で玉門と会話をする。
「いまいちノリが悪くね? 気象病かもね、鬱陶しい天気だと倍、バテるもんな」
視界が悪いのも相まって梅雨時の運転には神経をすり減らす。不注意で荷物を濡らしでもしたら賠償金を請求される恐れがあるから、なおさら。
疲労の蓄積がチンコケースに影響をおよぼした。慣れっこのひと突きに、心身ともに拒絶反応を起こした一番の原因はそれだ、と思う。では二番目以下が何かと考えて、真っ先に思い浮かんだのは眼鏡を押しあげる仕種……。
ハンドルさばきがぶれて対向車線にはみ出しかけた。ミントガムを口に放り込んで、ワイパーが扇形に切り取る風景に意識を集中させる。
ここ何日か若草宅へのお届け物はない。言い換えるとご尊顔を拝しそこねているわけで、それがテンションが上がる、下がるに著しく作用する──という事実はないといったら、ない。
などと自分をごまかしても無駄だ。若草は、ちゃっかり心の中に住み着いてくれている。現にあちらの美容室、こちらの乾物屋、と配送車を走らせている間も、
「う~、科白回し、棒読みなのが逆にエロいっていうか、推したくなるっていうか……」
下種ばって囁きかけてくる声が折に触れて耳に甦るたび、ときめくわ、頬が紅潮するわ、大騒ぎだ。
「若草さんてば黙って立ってりゃ知的なイケメンなのに、予測不能のむっつりスケベなんて詐欺もいいとこ。今度は『世良くん、きみのM度を測定してみようか』なんてこと平気で言いだしそうで怖 ぇー」
と、まあ独り言が多いのは、基本〝ぼっち〟で北から南への、宅配ドライバーならではの一種の職業病だ。ともあれ亀甲縛りからのスパンキングからの各種バイブ攻めへ、と検査項目はよりどりみどりの可能性はなきにしも非 ず、だったりするかも。
官能小説家生命にかかわるから、と懇願されちゃった日には実験台を務めるにやぶさかでない。と、いうより、やぶさかでないのが怖い。
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