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第35話

「遊びに来いって誘われてんだけどな……」  若草に深入りするということは、地図を持たずに旅に出るに等しいということだ。つまり相当な覚悟がなければ火傷するのは必至。  だが指切りゲンマンしたからには訪ねていくのが礼儀だ。ただ、執筆の邪魔をする形になってもゲリラ的な面がある宅配便の場合は「仕方ない」で、すませてもらえるだろう。  かたやLINEでつながっていないがゆえ、プライベートで突撃訪問するのは、ためらわれる。逆鱗に触れて門前払いを食らうのがオチに思えて。  セーラー服を返しにいく、という立派な目的があっても四〇六号室の敷居がスカイツリー並みに高いのには理由(わけ)がある。例の〝○○ごっこ〟の復習に努めたといえば聞こえがよいが、ぶっちゃけた話、むらむらしちゃったのだ。  それは自宅にてセーラー服を着用におよび、劣情をそそる立ち居振る舞いを研究しているさなかの出来事だ。ついつい、ひとりエッチを盛大におっぱじめてしまったのだ。おまけに、かけることの五回。その報いにクリーニング店の受付で、  ──あら、スカートにシミがついているのは何をこぼしたのかしら。  ──タンパク質系の液体を、えっと……一発目は濃くて最後のほうは薄いのを。  へどもどと申告する羽目に陥り、あまつさえ、いわゆるが若草とくれば会いにいきづらいのも当然……。  後続車がクラクションを鳴らして急かす。吹き降りでにじむ五差路を眺めやれば、進行方向の信号が青に変わっていた。  世良は、てめえにビンタを食らわせてからアクセルを踏んだ。若草とW主演を務める妄想劇の幕をしっかり下ろしておかないと、事故る。  悩む柄でもないのに悩みっぱなしで、それでも営業スマイルを標準装備してノルマをこなし終えた夜。焼き鳥のタレと串とで空飛ぶイチモツくんを落書きしながら再び物思いに耽る。  凡退を繰り返しつづけている〝チンコでハンコ〟において逆転ホームランを放つ。その一策として若草のエキセントリックな面に訴えるのは、試してみる価値があるかもしれない。  セーラー服姿でハッスルするに事欠いて腱鞘炎になりかねないほどオナって云々、と懺悔をはじめたら専門馬鹿……もとい好奇心旺盛なあの男性(ひと)のことだ。根掘り葉掘り訊きたがるに決まっている。  そこで渋々というふりで実演してみせ、とりわけ玉門に指を出し入れして煽り、もこもこもっこりと育ったのを楽しく収穫いたしましょう──。 「痛っ! なんか変な目つぶし食らったあ」  その正体は、ビールジョッキで頭をこづかれた拍子に飛び散った泡だ。世良がヒィヒィ言って目をしばたたいていると、今度は中身をせせったあとの枝豆の(さや)が飛んできて額に命中した。 「ぶつぶつ、ぶつぶつ負のオーラをまき散らしやがって。酒を不味くしてくれた礼に鉄槌を下してやったのさ」  その通り、と拍手が湧き起こった。

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