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第42話

 オエッとなるどころか、上目づかいで睫毛はたはたを追加してのけるノリやすさが我ながら恐ろしい。  泣く泣くセーラー服に着替えた先日は、揚子江の、いちばん川幅が広い箇所を向こう岸へ渡るくらい抵抗があった。   それに引きかえ、今夜越えるのは多摩川程度にまで抵抗感が薄れている。順応性が高いのも善し悪しで、もしも次回はスクール水着へと要求がエスカレートしたとして、小川を飛び越える感覚で着てしまうかも……ドアをノックする音が現実に引き戻す。 「世良くんに告ぐ、おとなしく出てきなさい……こんな古めかしい科白で投降を呼びかけても立てこもり犯の心には響かないよね?」 「いま、行きますってば!」  今日も今日とて本の山を縫って延びる獣道伝いにソファに行き着く。そして若草の隣に、ちょこんとおさまった。おしとやかに振る舞うアプリが内蔵されているっぽいあたり、おれは役者体質だったりする? 「舞台は体育倉庫、僕は足フェチの体育教師、世良くんは日直の生徒の設定で頼むよ。ベタだけど基本は大事だからね」  そう前置きした瞬間、若草の中でスイッチが入った。ちょうちんブルマの足ぐりから爪先へ、爪先から足ぐりへ、サラブレットの競り市で吟味するような熱っぽい視線をそそぐ。 「学園一の美脚との称号を授けよう。まっすぐで肌もすべすべで非の打ち所がない」 「そんなあ、太足なのに照れちゃう……」  世良は、ほっぺたの肉をまあるく押してお団子を作った。もじもじする上にも、もじもじと体操服の裾を引っぱり下ろして太腿をくるむポーズだって投入するのだ。  実はすね毛はもとより、VIOゾーンだって永久脱毛ずみでつるんつるん。披露するのが楽しみで仕方がない、と忍び笑いが洩れた直後、ちょうちんブルマを撫で下ろされて心臓が跳ねた。  だいたい、ちょうちんブルマの野暮ったいことと言ったら犯罪級。ところが、もっさりしているのが一回転してスケベ心をくすぐる代物(しろもの)へと進化を遂げた──ごく一部のマニアにとっては。  若草の指はすんなりとして美しい。しかも器用に動く。人差し指が斥候を務めるように、むこうずねを這いのぼる。膝頭に達すると、ピアニシモの指づかいでじわじわと折り返す。  肌に触れるか触れないかの状態を維持しての刺激を受けると、こそばゆさとむず痒さをない交ぜに産毛が逆立つ。 「おれ……じゃなくて、あたし。さわさわされるの苦手なんですっ」 「個人指導を受けられるのは日直の特権なのだ。わがままを言う生徒は、こうだ」  ぴしゃりと内腿をはたかれた。反射的に横座りに膝をたたんで、肘かけのほうへ座面をずれる。すんすんと(はな)をすすってみるのを忘れなかったあたり、芸が細かいと褒めてほしい。  なお、怯えた表情が真に迫っていたのは、ねっとりと淫靡な雰囲気が醸し出されるからである。

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