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第44話

「んっ……!」  掘り起こすように乳首をつままれ、 「この棒状の、ぷりぷりと硬い物体は一体なんだ。校則違反の何かを隠し持っているのか」  並行して茎の輪郭をつう……とひと撫で。びくん! のけ反り、汗ばんだ肌が座面から剝がれるのにともなってマヌケな音を立てた。  おかげで我に返った。そして世良は思った。チンコケースによる、おれのイチモツさばきは神と讃えられるほどずば抜けている。 〝ちょうちんブルマできゃぴきゃぴ嬲られまくりの巻〟が若草のペースで進むに任せておいてかまわないのか。いいや、どんでん返しがあったほうが断然面白い。まずは奇襲をかけて主導権を奪い返す。  熱っぽい吐息を逃がす、うっすら開いた唇をロックオン。柔道で言うところの奥襟を取る形に持っていき、若草がのめるが早いか引き寄せた。すかさずむしゃぶりつくように口づけて、舌で結び目を割りほぐす。 「はしたない真似をして、減点1だ」 「あ、ひん……!」  ふぐりを撫で転がされて身悶えし、隙をついて唇をもぎ離されても、めげずに! しっかり! 舌をこじ入れる。  対・若草における〝チンコでハンコ〟の通算成績は〇勝十八敗。ジャンケンだろうがボウリングだろうが、勝てばうれしい、負けるとくやしい。延べ十八回にわたって巧妙なあしらいっぷりで精鋭部隊のプライドをがたがたにしてくださったお礼に、濃厚なキスでぐずぐずに蕩かして差しあげましょう。  ──同性とキスするのは、その場の勢いでつい、という昼下がりのあれが正真正銘、生まれて初めてだが。 「生徒の分際で、けしから……ん、むう……」  舌を搦め取り、根こそぎにするように吸いしだいたかと思えば、優しくせせる。メリハリをつけことで、かぐわしい一時(ひととき)を演出するのだ。うっかり舌をほどかれたら、自分のそれで、まさぐってもくすぐったい上顎の一帯をねぶって返す。おれの底力を見せてやる、と口腔の隅に追い詰めた舌をたぐり寄せたせつな、 「痛っ!」  わりと強めに嚙みつかれた。反射的に退くと、一転してするりと絡ませてくる。〝セクハラ体育教師が支配欲を(ほしいまま)に満たす場〟へと流れを引き戻すように。  口腔を巡る陣取り合戦を制するのはおれ、と受けて立ち、ただし誤算があった。ミイラ取りがミイラ取りになるとはこのことで、くちづけに酔いしれてもらうはずが、仕かけた世良のほうが夢心地へいざなわれる始末。  女子とのキスと大きく異なる点があり、それは舌を武器に鍔迫(つばぜ)り合いを演じるのはバトル的要素を含んで萌える、ということ。駆け引き上等、だまし討ちあり、お互い技巧を凝らして貪り合う。  温気(うんき)が澱む夜で、掃き出し窓は開け放ってあった。クチナシの香りが風に乗って馥郁と漂ってくるにつれて、甘美な雰囲気が高まっていく。  古風な置時計が袖机の上で時を刻む。長針が一回転して、また一回転しても、ちゅばちゅば、れろれろ、ストッパーが弾け飛んだようにキリがない。

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