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第45話

「……ん、若草さ……ん」  と、蜂に刺されたのかと思って舌を巻きつけそこねた。爪楊枝が背もたれと座面の(きわ)にめり込んでいて、それが警告を発するように太腿をつついてきたのだ。  やっべえ、マジ勃ちする寸前だった。世良は殊更まばたきをして、危うく散り散りになりかけた理性をかき集めた。  当初の目的を思い出せ。勃たせるのはあくまで若草のイチモツであって、Tバックはおろか、ちょうちんブルマの一部までもっこりするありさまでは本末転倒。乳首までもが摘み取ってほしげに体操服に浮きだすに至っては、何をか言わんや、だ。  若草の膝に自分のそれをすりつけた。だるまさんがころんだ、と心の中で唱えながらジーンズの中心へそろそろと手を伸ばす。  ちょんと触れた、すぐ手を引っ込めた。おいおい、この期に及んでビビったのか。自分を嘲笑い、改めて狙いを定める。摑み出してしまえばこっちのもので、ひとしごきして差しあげれば檻から解き放たれたように、いきり立つこと請け合いだ。  かつてなくイチャイチャな空気が充満している今を()いて〝チンコでハンコ〟を完遂する機会はほかにない。そうだ時、至れり。  いざ参る、とファスナーの金具をつまんだ。若草にしなだれかかって彼の視界を遮り、数ミリほど下ろした矢先、唇のあわいで擦過音が轟いた。 「やめ、やめだ、やめ!」  とりわけ吸着力が強い、吸盤を剝がすようにキスがほどかれるのにともなって「ぬぽん」。 「古臭い、ちょうちんブルマを美脚に敢えて組み合わせる。あざとエロさを追求する演出が台無しじゃないか」  嘆かわしいと言いたげに立ちあがり、その拍子にスプリングが大きく弾んだ。  世良はバランスを崩し、あられもなく足をおっぴろげて床に転がり落ちた。切なさと滑稽さをない交ぜに、ちょうちんブルマが儚くも膨らむ。 「世良くん、きみは慰み者に堕しても(けが)れることを知らない聖少女になりきってほしいんだ。清楚、可憐、無垢……はい、復唱する!」 「清楚、可憐、無垢……?」 「そう! 三拍子そろった乙女だ、乙女を求めているんだ。(しか)るに何を履き違えたのか小悪魔のごとき所業に及ぶとは言語道断!」  たったいまレジデンス・デイジーホールが倒壊する騒ぎが起きたとしても、若草は粉塵さえエネルギーに変えて熱弁をふるいつづけるに違いない。  世良は尻でいざってソファの裏に避難した。しょぼしょぼんとペニスはしぼんだ……が蜜をにじませるヤンチャぶりが、いじらしいというか、さもしいというか。  それはそれとして嵐が過ぎ去るのを待っているうちにムカついてきた。脱線するきっかけを作ったのは確かにこちらでも、若草だって満更でもなさげだった以上、同罪じゃないか、ぶつぶつ。

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