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第2話

恭介と名乗ったその男は、ずぶ濡れの晴希がホテルで怪訝に思われることを案じ、自分が働いている海の家でシャワーと着替えを使えばいいと申し出てくれたので、素直に好意に甘えることにする。 これでいつもの時間にかかってくる電話に出られないのは不可抗力だなと、少しほっとした。 恭介の働く海の家は海水浴場の真ん中にあり、話しながら歩けば程なくたどり着いた。 恭介は夜中にも関わらず利用客の忘れ物を取りに来ていたそうで、曰く「大事なもんやから夜中でも電話してきたんやろうし」ということらしい。 その道中で見ず知らずの人間を助けようと海に入ったのだから、本当に人がいい。 見た目は遊んでいそうで、晴希としてはあまりお近づきになりたいタイプではないのだが、泳げないけれど海が好きでここで働いてたらそれっぽい見た目になった、と笑う恭介は屈託がなく、ひどく魅力的だ。 賑やかな海水浴場は見られなかったけれど、昼間の海そのもののような明るくおおらかな男と出会えて、晴希は久々に自分の心が躍るのを自覚した。 個室のシャワーブースもあるが、電気をつけると大量の蛾がやってくるからお勧めしないと言われ、田舎らしい理由に笑う。 なんだかさっきから自分はよく笑っているなぁと、晴希は他人事のように思った。 促されるまま建物の裏手にあるむき出しのシャワーブースへ行き、二人並んで頭から水を被れば、気持ちよさに更に笑顔になる。 行きつけのサロンで買ったシャンプーも、保湿力の高いボディソープもない。 手触りや艶にそれなりに気を遣ってきた黒髪は潮で軋むし、あまつさえ頭皮を伝ってざらりと砂が流れ落ちてきたりして、また笑ってしまう。 すごく遠いところに来られた気がした。 「ここで全裸になったら警察に捕まると思う?」 建物の裏手とはいえ、防波堤沿いの道から身を乗り出せば確実に見える場所だ。 こんなところで裸になるなど普段の晴希なら考えられないことだったが、恭介が笑って「おまわり来よったらこれまた全裸の俺が間に入って目隠ししたる」と言うからひどくおかしくて。 晴希は笑いながら下半身に身に着けたものを一気に脱いだ。 ワイシャツの裾が辛うじて際どいところを覆ってはいるが、水に濡れて肌に張り付き、満月の強い光の下では完全に透けて見えているだろう。 晴希は海の家に向かって歩いている時から、海水で張り付く白いシャツの胸元を、恭介が何度も盗み見ていることに気づいていた。 恭介はおそらく同性に興味はないだろうが、晴希はノーマルな男でも自分の乳首には興味をもつことがあると経験的に知っていた。 晴希の乳首は刺激が無くても常にせり出して、シャツを突き上げてしまっている。 道具を使って散々吸引されてから、乳輪ごと(くび)り出してぎちぎちに縛られ、更に重りをぶら下げられ続けて、いやらしく(いびつ)に変形してしまった。 今では女性に勝るとも劣らないほど大きく長くなってしまって、服を着ていても否応なく人目を引く。 儚げな女顔のせいもあってか、調教の痕跡を明らかに示すその乳首を見れば、多くの男は晴希が被虐に(むせ)ぶ姿を容易に想像する。 そして、嫌悪すると同時に触ってみたいという好奇心も抱くのだ。 晴希は恭介の視線を意識していることはおくびにも出さず、脱いだスラックスに入り込んだ砂を洗い流し、続いて小さなきわどい下着を軽くすすいでスラックスの上に広げて置いた。 その間も、恭介には大きく突き出した乳首とわずかに興奮の膨らみを見せる無毛の局部が色濃く透けて見えているだろう。 そのまま当然の流れのようにシャツも脱ごうとボタンに手をかけたところで、ようやく恭介が晴希の手首を取った。 「やっぱりここでは、あかん」 それ以上の言葉はなく、強い力で海の家の裏口の闇に晴希を引き込んだ。

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