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第3話

せっかくシャワーを浴びたのに、背中を押しつけられた海の家の畳は砂でざらざらする。 海に面して解放された作りの休憩場所は、昼間の喧騒は鳴りをひそめ、立て掛けられた目の粗い葭簀(よしず)がビーチからの目隠しとなり、むっとした気怠い空気を閉じ込めていた。 シャツの上から熱心に乳首を吸い(ねぶ)る男の髪を掻き乱しながら、晴希は葭簀越しに海と月を見ていた。 海の中から見上げた時は、空の方がよほど深いように思えたが、ここから見ると海の方がよほど黒々と恐ろしげに見える。 夜の海への恐れを取り戻させてくれた男の髪の毛は、潮で傷んでいるのかごわごわとした触り心地だ。 指でその物珍しい手触りを楽しみつつも、シャツ越しに愛撫される乳首から下半身にじわりと快感が広がり、晴希は自分のペニスが完全に勃ち上がってしまったことを自覚する。 おそらく男同士の経験がないだろう恭介に見られて萎えられるのが怖くて、髪に挿し込んだ指で顔を上げるように促し、ようやく乳首から離れた唇に噛み付くようにキスをした。 角度を変えて何度も(ついば)み、下唇を軽く吸うと、恭介も覆いかぶさった体をずり上げ、晴希の後頭部に手を差し込んで、ぐっと引き寄せて応えてくれる。 上下の唇を一緒に覆うほど大きく口を開けてむしゃぶりついてきたので、晴希も大きく口を開けて、迷いなく舌を差し出した。 舌を吸い合い、絡め合って、お互いの興奮を伝え合う。 その間も相手の体を手の平で辿って、月明かりにぼんやりと浮かぶお互いの体を肌で確かめようとしていた。 波の音と、肌が畳を擦る音と、二人の荒い息。そして唾液を含んだ微かな水音しか聞こえてこないのに、晴希はふといつもの着信音が聞こえた気がした。 今頃晴希の携帯電話は、ホテルの鞄の中で何度も同じメロディを垂れ流しているはずだ。 晴希が毎日この時間の着信を心待ちにしていることを、あの人はわかっているのだから。 だが、晴希の濡れたシャツを脱がそうともどかしげに動いていた恭介の指が、ついに耐えかねたように力づくでボタンを引きちぎった時、ボタンが弾け飛ぶ音と布から伝わる衝撃が、幻聴の着信音を掻き消した。 それが引き金になったように、晴希は自ら恭介のハーフパンツに両手を突っ込んだ。 左手を伸ばして玉を優しく揉みしだき、右手でみっしりした重量感のある雄を扱き立てる。 恭介はその刺激に思わず呻いたが、晴希の積極的な動きに触発されたのか、(あらわ)になった左の乳首にむしゃぶりつき、右の乳首をグリグリとつねり上げて、少し乱暴なほど激しい愛撫を施す。 刺激で固く勃ち上がった乳首は更に質量を増して長く伸び、恭介の口の中で唾液に塗れて弄ばれる。 舌触りがいいのか、恭介は根本を軽く噛んだまま何度も強く吸い上げ、伸びた部分を舌でうねうねと味わっていた。 これまで酷い方法で散々いたぶられてきた敏感な乳首を、恭介の熱い口の中でねっとりと慰撫(いぶ)され、その優しいけれど直接的な刺激に晴希は声を殺し切れずにいた。 ほぼ外といえるような場所にも関わらず、「あん…ああ…」と喘ぎ、奉仕する手も思わず止まってしまう。 その反応に気を良くしたのか、恭介はついに晴希の勃ち上がったぺニスにも触れた。 初めおずおずと確かめるように握り込んでいた右手は、次第に大胆になり、晴希がしたように雁首を指の腹でなぞったり、鈴口を爪でくじったりと相手を感じさせようとする意思をもって動き出す。 同性を相手にする戸惑いが欲望に鮮やかに変化していく様は、晴希をひどく興奮させた。 シャワーの名残か吹き出す汗かわからない滴が、若く精悍な男からぽとりぽとりと胸や腹に落ちてくる感触がたまらなくて、恭介のぺニスを扱きながらうっとりと目を閉じる。 ふと、乳首から離れた恭介の唇が、明確な目的をもって晴希の体のあちらこちらに口づけ、舌を這わせていることに気づいた。 鎖骨、脇腹と、確かめるように唇で辿り、舌を這わせる。 「跡、つけん方がええんやろ?」 外に聞こえないように声を低めているだけのはずなのに、その声は少し悲しげに響いた気がした。 晴希の体中にはっきり残る縄の跡を唇で辿った恭介は、乳輪の上下に残る一際濃い跡を特に念入りに(ねぶ)っている。 他の男の嗜虐の痕跡が、出会ったばかりの男を興奮させているのか当惑させているのか、晴希にはわからなかった。 ただ、晴希の体をこんなにしながらも、結局毎回家庭に帰っていく男に刻まれた跡がもう長い間鉛のように心を重くしていたから、いっそ全部消してほしくなってしまった。 「いっぱいつけて」 変色した肌を癒すように舐っている男の濡れた髪を指で(くしけず)り、甘えた声で強請(ねだ)れば、返事もなく強く吸われて小さく声が漏れた。 それからはわずかに残っていた恭介のためらいが完全に(ぬぐ)い去られ、縄跡がある場所も、白さを保っている場所も、お構いなく吸いつかれた。 あまりにも沢山の場所を強く吸われて、その一つ一つが全て赤い跡を残していると思うと、知らない男に体を踏み荒らされているのだと実感できて、背徳的な興奮がとめどなく湧き上がる。 「噛んでっ いっぱい噛んでっ」 声を抑えることも忘れて胸を突き出して懇願すると、恭介は遠慮のない力で右の乳首に噛みついてくれた。 「あああああっ」 喜びの悲鳴が(ほとばし)り、恭介に握られていたぺニスから白濁が勢いよく飛び散る。 手と腹を汚されたことを意にも介さず、恭介は晴希のぺニスをそのまま扱き続け、間髪入れずに左の乳首にも強く噛みつき、乳首の周りの肌にも血が出そうなほど強く二度三度と噛みついた。 達した後の脱力を許されず、晴希は悲鳴を上げながらざらつく畳を掻きむしる。 すぐ近くから唸るように響く波の音と潮の香りと相まって、優しさと激しさを併せもつ恭介の愛撫は、晴希を海に引きずり込んだあの波のようだった。

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