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第6話

そう言うと古賀はスピードを上げ加速し、ハンドルを巧みに切り、警視庁の人達をあっという間に撒いてしまう。 左右に振られかなりのスピードを出す車に恐怖し、グリップを必死に掴んでいた藤堂は車が路地に止まるや否や止めていた息を一気に吐き出し浅い過呼吸を何度も繰り返した。 「…なんだよ、肝座ってねぇな」 苛ついているのか、古賀は窓を開けて煙草に火をつける。 (あんな運転されたら誰だってこうなるだろ!!!) 怒鳴りたい気持ちを必死に抑え、藤堂は黙って資料に再度目を通す。 「…さっきの続きだ」 煙草を吸い白い煙を外に吐き出すと古賀が先程の話の続きを話し出した。 「ハウンドの本拠地はイタリア。世界各国に売買ディーラーを携えていて国際的に追われている。実際薬物を持っていた京極から話を聞いた限り、うちにピアチューレセスワーレを流してるのは中国マフィア"明蘭"(ミンラン)の人間だった」 古賀はタバコの吸い殻を車内の灰皿に押し当てると続けて言った。 「今から行くのは京極が所属する組織が薬を渡すと言われている取引現場だ。…そこでだ新人」 藤堂はなんだか嫌な予感がし古賀の方を見ると、古賀はニヤリと片頬を上げて笑い、悪い顔をしてこちらを見ていた。 「…な、なんで俺が……」 『仕方ないだろ。俺は京極の一件で顔がわれてる可能性があるんだから』 藤堂はインカムから流れてくる古賀の声にため息をこぼし、着いてきたことを後悔した。 『いいか、今から入るクラブは仕入れたピアチェーレセスワーレを顧客に売ってる現場だ。お前はそこからピアチェーレセスワーレのサンプルを手に入れてこい』 「だからさっき俺に大金と財布を渡したんですね…」 藤堂はスーツのパンツから財布を抜き、中身を再度確認する。 「偽の身分証まである…」 『当たり前だ。お前の本名なんか晒せるかよ、こっちの素性まで知られちまうからな……いいか、俺の言った通りに行動しろよ』 「了解です。…とりあえず入りますね」 大きく深呼吸をすると藤堂はクラブの方へと向かい、階段を登る。 入口で黒のスーツを着た警備員に止められ、身分証を見せろと要求され素直に応じる。顔を確認され、次にある言葉を投げかけられた。 「ウェルカムドリンクは如何致しましょう?」 するとインカムから古賀の声が聞こえる。 『シルク・ストッキングスにチェリーを2つ追加で』 「えーっと…シルク・ストッキングスにチェリーを2つ追加で」 言われた通りの台詞を言うと、警備員は無言で身体検査をし、中へと藤堂を通した。 何食わぬ顔で中へと入り、数歩歩いて藤堂は胸元を抑える。

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