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第8話

中へと入ると後ろの扉は閉められダウンライトが点灯し、長い廊下を2人で進む。 特に話すこともないからかコツコツと革靴の乾いた音だけが響き渡る。 「……。ぇと、こがさ」 「喋んな。ここに来てから監視されてる」 古賀の一言に藤堂は咄嗟に口を噤む。 下手に名前を呼んではこちらが不利になってしまう。 「すみません…」 藤堂が謝ると古賀はただ黙って頷き足を止める。 「ここか…。入るぞ」 いつの間にか扉の前まで来ており古賀が一息入れると扉のノブに手をかけた。 あっさりとしている古賀とは裏腹に緊張で頭が回らない藤堂はただ後ろをついて行くことしか出来ない。 部屋に入るや否やモニターが映し出され、1人の人物が現れる。 「うわっ!?な、誰んぐっ!」 驚く藤堂の口を素早く片手で塞ぎ、古賀がモニターに向かって大きな声で言った。 「ここで最高にトべるもんが買えるって聞いたんだけど」 するとモニターからボイスチェンジャーを使っているのか不快な音声で返答が返ってきた。 『買えるぞ』 「1つもらえるか?」 『条件は1つ…使う者との証明だ。この場に連れてきている者と使うのだな』 モニターの男の言葉に藤堂はギョッとする。 (証明って、何すんだ…) 予想が付かない東堂とは違い、落ち着いた表情の古賀。 だが次の瞬間、古賀がこちらを振り返り距離を詰めると強引に唇を奪われた。 「っん!?」 何が起こったのか一瞬わからなかった。 古賀に掴まれた手首と腰に力が入りまるで抵抗するなと言わんばかり。 目を見開き目の前で唇を重ねている相手を見つめる事しかできない。 (なにしてんだ…俺は!?) そして、そのまま口内にぬめりとしたものが入り込んできた。 「んんッ!?」 古賀が藤堂の口内を激しく犯し始めたのだ。 歯列をなぞられ上顎を軽く舌でくすぐられ、その後、藤堂の舌が古賀の熱い舌に絡めとられる。 頭の中でイヤらしい音と自分の喘ぎ声が響いて余計に羞恥心が駆り立てられる。 (なんで…こんな…っ!) 藤堂は古賀の舌の動きにだんだんと身体の力が抜けていくのを感じた。 (なんでこんなに上手いんだよこの人!!) 瞳も段々と蕩けてき、口の端からはだらしなく液が溢れ、足に力が入らない。 ちゅっ…っといういやらしいリップ音を鳴らし、藤堂の唇から古賀の唇が離れる。 それと同時に藤堂が呆気なく膝から崩れ落ち、古賀に腰を支えられながらでないと立つことがままならない。 その姿を見た古賀が袖で唇を拭うと、モニターに向かって笑う。 「これで満足か…?」 するとモニターの文字がパッと切り替わる。 “楽しいものを見せてもらった” その文字がモニターから消えると、右側の扉からアタッシュケースを持った男が現れた。 男は机の上にアタッシュケースを置き、鍵を開けるとその中には何本もの試験管にいれられた薬、おそらくあれがピアチェーレセスワーレなのだろう。 試験管を一本取るよう言われ、古賀は藤堂を支えている手とは反対の手で薬を手にする。 やっと手に入った実物に古賀は少し達成感を得たが気は抜けない。 料金を男の手に渡し男が枚数を確認あっていると分かると男は無言で去っていき、またモニターに文字が映る。 “次はお前たちにもっと楽しい事が起きるだろう” その文字が数秒映ると古賀達が入ってきた扉がガチャリと音を立てて開き、部屋を出ろと言わんばかりに黒服の男が古賀達を待っていた。

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